最新記事

中国外交

EUにも嫌われ始めた中国の戦狼自滅外交

China's 'Tone-Deaf' Diplomacy Hardens Attitudes in Europe, Brussels Expert Says

2021年7月5日(月)18時38分
ジョン・フェン
中国共産党の創立100周年を祝う文芸公演と習近平

6月28日、北京では中国共産党の創立100周年を祝う文芸公演が華々しく行われた Thomas Peter-REUTERS

<ウイグル族の人権侵害を理由に対中制裁を発動したEUに報復制裁を繰り出した中国。投資協定も頓挫し、欧州との融和的関係は危機に瀕している>

新疆ウイグル自治区における人権侵害が広く報道されるなかで、中国政府とEUは対立を深めている。ヨーロッパを味方につけたい中国だが、友人を作るより失うケースのほうが多くなっているようだ。

中国とEUが、まさにやられたらやり返す報復合戦に陥ったのは今年3月のことだった。EUが中国北西部に住むウイグル族に対する人権侵害の責任を負う中国当局者4人と1団体を対象とする制裁に踏み切ったところ、中国はただちにそれ以上の報復制裁で反撃した。

この一件は、10年近い交渉で合意にこぎつけたEUと中国の包括的投資協定(CAI)の凍結につながった。CAIについては、アメリカと欧州の大西洋をはさんだパートナーシップを分断するためのツールとして、中国の習近平国家主席が成立を切望しているといわれていた。

中国がEUに派遣した特使は7月2日、再びEUの内政干渉を非難した。その前日、EUの外交をつかさどる欧州対外行動庁は、新疆ウイグル自治区の状況に対する「重大な懸念」を何度も繰り返し表明し、国連の人権問題担当幹部による現地調査の受け入れを中国に改めて要請していた。

中国側は、今年は確実に新疆ウイグル自治区を訪問したいというミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官をすでに招待していると発表。EUも招待しているが、EU本部が設定した「受け入れられない」前提条件があるために実現していないと付け加えた。

戦狼外交は自滅行為

人権擁護団体と国連の専門家は、少なくとも100万人のウイグル人が新疆の大規模収容施設に拘留されているという。強制労働や強制不妊手術を含む具体的な人権侵害も報道されている。中国は不正行為の告発をすべて否定し、報告書や目撃証言を嘘であり、情報漏洩だと説明している。

だが中国政府が「やみくもな戦狼外交」を通じて、自国の政策を強引に擁護することは「逆の効果をもたらす」行為であり、ヨーロッパ全体が態度を硬化させる結果につながった、とブリュッセルに拠点を置くロシア欧州アジア研究所 (CREAS)のディレクター、テレサ・ファロンは語る。

欧州議会は5月20日に批准の凍結を決議し、CAIは暗礁に乗り上げた。そして今、習は「ヨーロッパのジレンマ」を抱えている、とファロンは共産党の建党100周年記念大会の前夜に本誌に語った。

「中国は数百万ドルをソフトパワーに費やしてきたが、何ひとつうまくいっていない。それはこの好戦的な戦狼外交でみずからの努力を台無しにし続けているからだ。まったくの自滅行為だ」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中