最新記事

日本政治

政治家・菅義偉の「最大の強み」が今、五輪の強行と人心の離反を招く元凶に

An Exit Plan

2021年6月16日(水)19時24分
北島純(社会情報大学院大学特任教授)

210622P40_SGA_06B.jpg

バイデン米大統領が就任後初めて会う外国首脳として訪米(4月16日) TOM BRENNER-REUTERS

日本をめぐる外交環境の変化で、苦境に立つ菅氏に一筋の光明が差すとみる向きもある。4月16日の日米首脳会談で、菅氏はジョー・バイデン米大統領が初めて直接会った外国指導者となった。バイデン政権は3月に公表した暫定版国家安全保障戦略指針で中国を「安定した開放的な国際秩序に挑戦する唯一の競争相手」に位置付けており、対抗措置として、日米豪印の「クアッド」や「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想の重要性が増している。そうした枠組みを実効的に運用していくためには、経済安全保障を踏まえた緻密な利益調整が必要となる。

インドのナレンドラ・モディ首相、オーストラリアのスコット・モリソン首相と異なり、菅氏は「番頭政治」のプロでもある。バイデン大統領にとってこれほど頼りになる同盟国の首脳はいないかもしれない。

国民が何を求めているのか

実際に戦後日本で長期政権樹立に成功した首相には、日米の蜜月関係を外交の基軸にしたという共通点がある。逆に対中融和路線を打ち出し短命に終わった首相もいた。

しかし、菅政権は党内主要派閥間の微妙な均衡の上に成り立っている。クアッドやFOIPの実務的要という役割を果たすには、反中と親中で揺れ動く自民党内の天秤を安定させるだけでなく、連立政権を組む公明党との間の天秤を保つことも必要となる。そうしたバランシングに失敗すれば、外交分野の得点で内政の失点を補おうとしてもおぼつかない。

コロナ禍で不安な国民が求めているのは、何よりもまず内政の安定であり、首相の丁寧な説明と臨機応変な対応だ。首相の言葉と行動に、国民は指導者としての高潔性(インテグリティ)を見いだす。菅氏には、安倍前首相と異なりイデオロギー的な岩盤支持層は存在しない。しかし徒手空拳で農村から上京し、議員秘書から宰相に上り詰めた努力の人を応援し、「巧言令色少なし仁」を地で行く口下手に好感を持つ人がいないわけではない。

ワクチン接種が進めば、いずれはコロナ禍も収まっていく。五輪と総選挙さえ乗り切れば、菅政権は望外の長期政権になるかもしれない。移り気な無党派層だけでなく、期待してきた庶民層が愛想を尽かさなければ、だが。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中