最新記事

イスラエル

8野党連立でイスラエル政権交代、ネタニヤフを追い込んだ男と、実権を握る別の男

Bibi Is Dethroned

2021年6月7日(月)16時30分
ネリ・ジルベル(中東ジャーナリスト)
イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフ

ネタニヤフ(中央)は「政権強奪だ」と野党の動きに猛反発するが RONEN ZVULUN-REUTERS

<ネタニヤフ長期政権もついに終わりか。だが政権打倒のみで結束した「呉越同舟」の船出は前途多難。5月30日のテレビ演説でナフタリ・ベネットが態度を一変させ、事態は急展開した>

「政権は私の手中にある」。イスラエルの野党指導者ヤイル・ラピドが正式にそう述べたのは6月2日のこと。順調にいけば、通算15年に及ぶベンヤミン・ネタニヤフ首相の支配がついに終わり、ラピドの言葉を借りれば、このユダヤ人の国に「新時代」が訪れることになる。

議会での信任投票までには日があるが、1人の脱落者も出なければ政権交代は起こるだろう。ただし主義も主張も異なる8つの政党が手を組んで、辛うじて議席の過半数を超えているにすぎない。彼らの共通の目標はただ一つ。ネタニヤフ政権の打倒だ。

連立合意によれば、最初の2年は入植強硬派で右派の小政党ヤミナを率いるナフタリ・ベネットが首相に就き、残りの2年は中道派の最大野党イェシュ・アティドを率いるラピドが(外相から昇格して)首相となる。この連立には左派のメレツ党と労働党、中道派の「青と白」、右派の「わが家イスラエル」と「新たな希望」、そしてイスラム系のアラブ政党「ラアム」も加わる(アラブ系政党の政権参加は建国以来初めてだ)。

ここまでネタニヤフを追い込んだのはヤミナのベネットだ。この男、つい最近まではガザ地区での交戦や国内におけるアラブ系住民とユダヤ系住民の衝突が続いている限り、政権交代など「論外」だと主張していた。

テレビ演説で事態一転

しかし5月30日のテレビ演説で態度を一変させた。この2年で4度も選挙をやり、それでもまともな組閣ができずに5度目の選挙を迎えようとしている今こそ、誰かが「この狂気を終わらせ、責任を取らねばならぬ」とベネットは言い、ネタニヤフは「全ての国民を自分の身勝手なマサダ要塞に押し込もうとしている」と非難した。「マサダ」は、およそ2000年前にローマ帝国の支配に抵抗して決起したユダヤ人が立て籠もり、集団自決した場所だ。

実を言えば、ネタニヤフが元側近のベネットと手を結ぶという筋書きもあった。しかし、それでも議席の過半数に達する見込みは薄かった。だから協議は決裂した。

「それでベネットは、『5回目の選挙はなし』という自身の公約を守るためにこの決断をした。もちろん、その場合に右派主導の政権ができる可能性はなかった」。ベネットの思考回路をよく知る政治誌リベラルの編集長ロテム・ダノンはそう解説する。「ベネットは首相になりたい。だがネタニヤフが首相禅譲の約束を守るとは思えなかった」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン核施設の損害深刻、立て直しには数年要する=C

ビジネス

NY外為市場=ドル、対ユーロで2021年来の安値 

ワールド

米とイラン、核施設の被害規模巡る見解に相違=ロシア

ワールド

仏大統領がイスラエル首相と電話会談、イラン停戦合意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 5
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 6
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 7
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 10
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 8
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中