最新記事

イラン

「狂信者」アハマディネジャドが、まさかの民主派に転身して復活

Ahmadinejad’s Comeback?

2021年6月3日(木)17時29分
ハミドレザ・アジジ(ドイツ国際安全保障問題研究所フェロー)

当時のアハマディネジャドはおそらく、ある点を見逃していた。自分に味方をしてくれて、09年大統領選後に起きた大規模抗議運動「グリーン革命」を抑え込んだ保守派は、トラブルメーカーになりそうな存在なら、誰であれ同じようにつぶすということだ。

大統領退任を控えたアハマディネジャドが後釜に据えようとした最側近のエスファンディヤル・ラヒム・モシャイは保守派に嫌われ、大統領選立候補を認められなかった。モシャイは「国家安全保障への脅威」や「反体制プロパガンダ」を理由に、18年に懲役刑を言い渡されている。

17年大統領選では、ハメネイの助言に逆らってアハマディネジャドが立候補を届け出たが、このときも失格になった。本人も仲間も国家の重職に就く見込みがないのは、もはや明らかだった。

システムの枠内で権力の座に返り咲く手段はないと判断したアハマディネジャドは、別の道を開拓することに決めた。この4年間、国内政治における一線をいくつも踏み越え、反政府デモを支持したりイランの「構造的腐敗」を指摘したり、シリア内戦への介入を批判してきた。

今年の大統領選への再立候補は、長期的イメージ刷新作戦の最新段階と見なすべきだ。

現体制の崩壊を視野に

出馬は認められないだろうと承知していたアハマディネジャドにとって、失格判定は望みどおりの結果だ。おかげで、変革を求めてひたすら戦い、支配層との直接対決も辞さない人物とのイメージを打ち出すことができる。

再び大統領になる可能性がほぼないのは、本人も分かっているに違いない。だがその野望の対象は、大統領府をはるかに超えた次元にある。

アハマディネジャドは、82歳になったハメネイの死去後に訪れるはずの権力の空白を待っているふしがある。国内にも国外にも確固たる反体制勢力が存在しない現状で、目指すは全国的な「抵抗勢力」のリーダーという役割だ。

アハマディネジャドの元顧問で、現在は徹底した批判派であるアブドルレザ・ダバリによれば、ハメネイの死とともに現体制は崩壊するというのがアハマディネジャドの考えだ。だが、リベラル派民主主義者という自称とは裏腹に、アハマディネジャドが理想的な代替制度として描くのは、最高指導者抜きのイスラム国家という在り方だろう。

アハマディネジャドの野望の実現には、政治的基盤の拡大が必要になる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏「ロシアに戦争終結の用意ない」、制裁

ワールド

金地金、関税の対象にならず=トランプ氏

ワールド

ロ・ウクライナ、和平へ「領土交換」必要 プーチン氏

ワールド

トランプ氏「どうなるか見てみよう」、中国との関税停
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入する切実な理由
  • 2
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客を30分間も足止めした「予想外の犯人」にネット騒然
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    なぜ「あなたの筋トレ」は伸び悩んでいるのか?...筋…
  • 7
    「靴を脱いでください」と言われ続けて100億足...ア…
  • 8
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 10
    「古い火力発電所をデータセンターに転換」構想がWin…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 5
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 7
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 8
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 9
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中