最新記事

イラン

「狂信者」アハマディネジャドが、まさかの民主派に転身して復活

Ahmadinejad’s Comeback?

2021年6月3日(木)17時29分
ハミドレザ・アジジ(ドイツ国際安全保障問題研究所フェロー)
イランのアハマディネジャド前大統領(写真は2010年)

狂信的イデオロギーや強硬路線で知られたアハマディネジャドだが(写真は2010年) RANIAN PRESIDENT'S OFFICE/GETTY IMAGES

<大統領選への再立候補の失格判定はアハマディネジャドの読みどおり。今やリベラルを自称する策略家の狙いは>

狂信的イデオロギーや強硬な外交政策、激しい対米・対イスラエル批判──マフムード・アハマディネジャド前大統領時代のイランといえば、そんな特徴が記憶に残る。

だが2013年に大統領を退任して以来、ポピュリスト的扇動にたけたアハマディネジャドは、もっぱらイランの統治システムを攻撃対象にしてきた。そうした動きが頂点に達したのは今年5月。6月18日に予定される大統領選への再立候補を届け出たのだ。

イラン大統領選の立候補には、護憲評議会による資格審査を通る必要がある。予想どおり、アハマディネジャドの出馬は認められなかったが、これこそ「勝利」だった。

アハマディネジャドの真の狙いは、大統領選に勝利する機会を奪われることにあった。自らを不当な体制の犠牲者とアピールするには、そのほうが都合がいい。

あなたたちが思うアハマディネジャドではない

大統領選への立候補を届け出た際、護憲評議会が自分を失格にするなら選挙をボイコットすると、アハマディネジャドは脅しをかけた。ほかの候補を支持することはないとも明言した。

保守派は直ちに反発し、アハマディネジャドが異を唱えているのは、自らが大統領になるために利用した選挙制度にほかならないと批判した。それでも、アハマディネジャドの挑発は続いた。あるインタビューでは、自らを「リベラル派民主主義者」と形容。これはイランの強硬派が、反対派の信用失墜のためによく用いる呼称だ。

さらに「私はあなたたちが思っているアハマディネジャドではない」とも語っている。この発言こそ、彼のメッセージを理解するカギだ。そう、もはやアハマディネジャドはかつての彼ではない。

実際、その変貌は10年ほど前から始まっていた。政府内保守派との関係にひびが入ったきっかけは、不正疑惑が指摘された09年大統領選で、アハマディネジャド再選という結果を後押しした最高指導者アリ・ハメネイの支持を拡大解釈したことだった。

アハマディネジャドはハメネイの支持を「自由裁量」の許可証と受け止めたらしい。その結果、司法府や議会、イラン革命防衛隊、ハメネイ自身も含めたほぼ全ての権力機構と深刻な対立に陥った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国自動運転モメンタ、上場先をNYから香港へ変更検

ビジネス

東証がグロース市場の上場維持基準見直し、5年以内に

ビジネス

ニデック、有価証券報告書を提出 監査意見は不表明

ビジネス

セブン銀と伊藤忠が資本業務提携 ファミマにATM設
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性を襲った突然の不調、抹茶に含まれる「危険な成分」とは?
  • 2
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 3
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、Appleはなぜ「未来の素材」の使用をやめたのか?
  • 4
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 5
    クールジャパン戦略は破綻したのか
  • 6
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 7
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 8
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 9
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 5
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 6
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 7
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 8
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 10
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中