最新記事

クーデター

ミャンマー、スー・チーの裁判26日にも結審か 商店など営業再開で軍政下の生活がニュー・ノーマルへ

2021年6月10日(木)19時15分
大塚智彦

一部ではスー・チー氏の裁判が最終的に結審して判決が全て確定するまでは約180日かかるとの報道もあり、スー・チー氏が早期に釈放される可能性は現時点では極めて少ないという見方が有力だ。

これは軍政が「2年後をめどに公平な総選挙で民主的な政権を選ぶ」としている今後の国政のロードマップからスー・チー氏、そして与党NLD関係者、さらにクーデター後に軍政に対抗して民主派が立ち上げた「「国民統一政府(NUG)」をも排除して、軍政の意のままの総選挙を実施するための準備とみられている。

一時所在不明情報も、スー・チー氏

スー・チー氏の公判が開かれているネピドーの特別法廷周辺は、公判が開かれた7日には軍兵士による厳重な警備が周囲を固め、物々しい雰囲気の中で行われたという。

5月24日の法廷ではスー・チー氏の写真が国営メディアで公開された。身柄拘束後にスー・チー氏の写真が公に公表されるのは初めてだった。NLD関係者などの支持者は「本人の安全が確認された」と好意的に受け止めたが、公判のスー・チー氏の写真公開にも軍政による司法掌握をアピールする狙いがあるものとみられている。

75歳になるスー・チー氏は2月1日にネピドーにある自宅で身柄を拘束されて、それ以来自宅軟禁状態が続いていたが、6月に入って「行方が不明になった」との情報が流れ、支持者らが慌てる事態も起きた。軟禁場所を転々させられているという未確認情報もあるが、軍は「身の安全を確保するため」として、確認はできていない。

こうした情報が流れていただけに7日にミン・ミン・ソー弁護士がスー・チー氏と面会できたことで、NLD関係者などは一様に安どを示しているという。ただ一方ではこうした情報操作もNLD関係者やNUGメンバーに対する軍政側の「揺さぶり」との見方もでている。

ヤンゴンは経済活動を開始

こうしたなか、クーデター以降、全国に広まった一般市民によるデモは沈静化し、中心都市ヤンゴンでは6月に入って商店や飲食店、市場などが次々と営業を再開している。

軍政による「市民生活の安定化」を内外にアピールするための指示が出されたことにに加えて、生活困窮の市民が経済活動再開に踏み切らざるを得ないことが背景にあるとみられている。

ヤンゴン市内では日本食レストランも一部でオープンし、集客のために一部メニューを値下げして客を待っているという。

反軍政を掲げる市民の間では、スー・チー氏の裁判が長期に渡り、なおかつ「有罪判決」「長期の刑期」への不安が高まっており、裁判の今後の進展に対し固唾を飲んで見守っている状況といえるだろう。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ」が物議...SNSで賛否続出
  • 3
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 8
    高市首相の「台湾有事」発言、経済への本当の影響度.…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中