最新記事

中国

建党100年、習近平の狙い──毛沢東の「新中国」と習近平の「新時代」

2021年6月25日(金)12時25分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

そのプライドを持つことを、トランプ前大統領が可能にしてくれた。

バイデン政権は国際社会に戻ってきているので中国は警戒しているが、しかし中国一国に対して、アメリカ一国では対抗する力がなく、他国を巻き込まないと中国一国に対抗できないほど中国が力を付け、アメリカが弱体化していることを、中国人民は喜んでいる。

そこまで持ってきた中国共産党を肯定している者が多い。

習近平にとってさらにラッキーなのは、その「中国共産党建党100周年記念」という大きな節目の年に中国のトップの指導者であったことだ。この周期は百年に一度しか訪れないので、この巡り合わせをフルに活用しないはずがないだろう。

「毛沢東の新中国」と匹敵する「習近平の新時代」を築くためには、憲法改正を断行してでも何としてでもトップに立っている長い時間が必要となる。だから国家主席の任期を撤廃した。中共中央総書記に関しては、もともと党規約には「任期」が書かれていないので、党のトップに立ち続けることは、現行の党規約で十分に行ける。

一党支配体制を維持するための最大の武器は「言論弾圧」

アメリカに潰されないようにする大前提として、中国共産党による一党支配体制維持が不可欠となる。

中国共産党の長い歴史を見れば、「言論」こそは最大の武器で、その言論を統一させておくことが一党支配体制を維持する基礎になっていることが分かる。

しかし習近平の父・習仲勲は、生涯を懸けて「言論の自由」を唱えてきた。「不同意見(異論)を認めなければならない」として、1990年に鄧小平によって再び失脚に追い込まれる前日まで、「不同意見を認める法律」を制定することに力を注いでいた(詳細は『裏切りと陰謀の中国共産党100年秘史習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』)。

その父の信念を裏切ってでも、習近平は一党支配体制を維持する方を選んだ。

昨日、香港の『リンゴ日報』が廃刊に追い込まれた。一党支配体制を維持し、「習近平の新時代」を貫徹するためには、「言論弾圧」が最も大きな武器となる。

しかし、それこそが逆に習近平のアキレス腱でもあることに注目したい。

ネット空間で自由に発信することに喜びを覚える中国の若者の大多数は、ネット規制がこれ以上強くなれば不満の方を強く抱くようになる可能性を秘めている。

なお日本は、政界が一部の親中派大物によって牛耳られていることが多いため、中国共産党を強化する方向にしか動いてない。安倍前政権も菅現政権も、習近平に忖度することしか考えていない。それが日本国民に不幸をもたらす結果を招くことに、一人でも多くの日本人が気づいて欲しいと望む。『リンゴ日報』の廃刊は他人事ではないのである。その危機は目前に迫っている。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アルゼンチンGDP、第2四半期は6.3%増

ビジネス

米大手銀、最優遇貸出金利引き下げ FRB利下げ受け

ワールド

ポーランド家屋被害、ロシアのドローン狙った自国ミサ

ワールド

ブラジル中銀が金利据え置き、2会合連続 長期据え置
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中