最新記事

米社会

市民の「殺害事件」を繰り返すアメリカ警察は、どんな教育で生まれるのか

“ANYONE CAN KILL YOU AT ANY TIME”

2021年5月19日(水)11時57分
ローザ・ブルックス(ジョージタウン大学教授)

210525p50po_02.jpg

 カリフォルニア州ハイウエーパトロールの訓練生 DAVID PAUL MORRISーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

家庭内暴力の通報を受けて駆け付けた途端に凶暴な夫に襲われた警察官。容疑者と格闘しているうちに橋から突き落とされた警察官。容疑者に抵抗されて銃を奪われ、頭を撃ち抜かれた警察官。スタンガンも効かない薬物常習者の群れに踏みつぶされる警察官。

そうやって死んだ警察官は、みんな「殉職した英雄」とされるが、身内の評価は違う。私たちは教わった。たいていの場合、彼らが命を落としたのは用心が足りなかったせいだと。

防御が甘かった。適切かつ戦術的な警戒を怠った。暑いとか面倒とかいう理由で防弾チョッキを着ずにパトロールに出た。そのせいで胸に6発も食らったんだ!

パトカーを止め、ちょっとスマホで私的なメールをチェックしていただけなのに頭を撃たれた。後ろから近づいてくるイカれた野郎に気付かなかったからだ!

家庭内暴力の通報で駆け付け、事情を聴いていたら容疑者にナイフで心臓を刺された。キッチンには鋭利な刃物が何本もあることを忘れていたからだ!

どう見ても人畜無害に思える年配の運転手に免許証を返し、行っていいぞと言った途端、そいつは隠していた銃で警察官を撃ってきた!

殉職者にならないために

「安全な業務などないと思え」と教官は言った。ありふれた、どうってこともない状況が一瞬にして命取りになる。それが警察官の日常。だから絶対に「戦術的」なアプローチを忘れるな。

いつ、どうやって自分が殺されるか分からないということを常に念頭に置いて、間違っても「殉職者」にならないために必要な行動を取れ。「それで無事に家に帰れたら、今日はいい日だったと思え」。私たちはそう教わった。

予備警察隊の講習だから授業は週末に限られたが、その時間の大半は肉体の鍛錬と「身を守る」技術の習得に充てられた。教官は巡査部長のフラナガン。小柄だが筋肉質で、アイルランド系の50代男性だ。

最初の授業で「来週からは諸君の名字を背中に黒マーカーで書いた白いTシャツを着てこい」と言われたのには閉口したが(私たちは事前にグレーのTシャツを着てくるよう言われていた)、決して悪い人ではなかった。

2016年第1期の春から夏にかけてのクラスでは、歩き方(容疑者には絶対に背中を見せず、カニ歩きを交えつつ後退する)から実戦的な戦い方、拘束術や痛みを与えて服従させる方法までを教わった。

サンドバッグやゴム人形を使ったり生徒同士で組んだりして、蹴りの入れ方や、手のひらで相手を打つ「掌底」、肘打ちなどの練習をした。相手の指の握りを解く方法や、腕を後ろにねじ上げて服従させるやり方も習った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米コカ・コーラ、英コスタ・コーヒーの売却検討=関係

ワールド

ボルソナロ氏弁護団、保護命令違反否定 亡命申請問題

ワールド

ロシア下院議長が中国訪問、制裁対抗策など協議へ

ワールド

ベトナムが南沙諸島で埋め立て拡張、中国しのぐ規模に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 6
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 9
    株価12倍の大勝利...「祖父の七光り」ではなかった、…
  • 10
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 10
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中