最新記事

米社会

市民の「殺害事件」を繰り返すアメリカ警察は、どんな教育で生まれるのか

“ANYONE CAN KILL YOU AT ANY TIME”

2021年5月19日(水)11時57分
ローザ・ブルックス(ジョージタウン大学教授)
警察学校の卒業式で宣誓する新人警察官たち(ニューヨーク、2018年)

警察学校の卒業式で宣誓す る新人警察官たち(ニュー ヨーク、2018年) DREW ANGERER/GETTY IMAGES

<地域社会と市民を守りたくて警察官を志したはずの善良な人々は、いかにして組織内の教育で「変身」するか>

警察官の人格はいかにして形成されるのか。それを、理屈ではなく体で感じ取りたい。アメリカの首都ワシントン郊外にあるジョージタウン大学の法学教授ローザ・ブルックスはそう思い、2015年に首都の予備警察隊に志願し、その「沈黙の青い壁」の内側に飛び込んだ。

そこで見聞きし、考えたことを、彼女は新著『青い制服にこんがらがって(Tangled Up in Blue)』(ペンギン・プレス刊)にまとめた。この本には、いま議論の的になっている警察活動の問題が組織の体質、とりわけ警察官の養成課程に深く根差していることが詳述されている。

警察官の過剰な暴力で、「容疑者」とされる市民が命を落とす事態は後を絶たない。多くの人が抗議しても止まらない。なぜなのか。以下では、彼女の著書から訓練生が警察学校で何を教わり、それが警察官の勤務中の行動にどんな影響をもたらしているかを論じた部分を紹介する。

◇ ◇ ◇

「誰だって君たちを殺せる、いつでもな」。それが警察学校で教わった最高に重いメッセージ。君が警察官なら、いつ誰に殺されてもおかしくないぞという警告だ。

もちろん教科書には載ってないが、教官の語るエピソードや繰り返し見せられたビデオで、ぐさりと胸に突き刺さった言葉だ。警察官が襲われ、ぼこぼこにされ、殺される映像を、受講生の私たちは何度も何度も食い入るように見つめた。そして思った。

この世は警察官にとって危険な場所、刺されたり撃たれたり殴られたり蹴られたり、車にひかれたり川に放り込まれたり、毒を盛られたり猛犬にかみつかれたりする。

「警察官の身の安全」を守るためのビデオだと、教官は言った。だから休み時間や、次の講義までの空き時間に、自分のパソコンやタブレットで見ておくように言われた。ネット上のビデオクリップを片っ端から再生したがる子供のように、私たち受講生もそんな動画のURLを互いに教え合った。

警察官が殺される状況は山ほどあることを、私たちは知った。ただの交通規制をしていた警察官が、後部座席の色の濃いガラスに隠れて見えなかったイカれ男に銃撃されるシーン。立ち往生したトラックに駆け寄った警察官たちが猛毒のガスを吸って倒れるシーン。事故車の運転手を助けようとした警察官が別の車にはねられるシーン。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中