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欧州のインド太平洋傾斜・対中強硬姿勢に、日本は期待してよいのか

2021年5月5日(水)11時20分
渡邊啓貴(帝京大学法学部教授、東京外国語大学名誉教授、日本国際フォーラム上級研究員)

「接近」と「警戒」

しかしよく見ると、EU外相理事会の制裁は中国に対してだけではなく、ロシア・北朝鮮・南スーダン・リビア・エリトリアの政府関係者とミャンマーの国軍クーデターの首謀者である国軍関係者11人も対象となっている。特定の国だけを的にした制裁ではなく、いわば包括的制裁の形をとっている。

EUの対中政策は最近急変して厳しくなったという見方があるが、それは印象論のように思う。「接近」と「警戒」を繰り返してきたというのが実態だ。

最近の傾向で変わったのは軍事的安全保障面でのコミットを強化する意思を明らかにしたという点だ。詳しく述べる余裕はないが、一番近いところから言うと、ユーロ危機で中国の支援を受けて以来蜜月の関係に期待していたEUは、2013年ごろから再び中国に対する警戒感を強め始めていた。

つまり2012年に習近平政権が誕生して「中国の夢」が語られ、やがて「一帯一路」構想というユーラシア全域からアフリカ・ヨーロッパに及ぶ広大な中国の勢力圏構想が明らかになった時期である。

EUの対中政策は経済貿易の利害関係と人権の間で終始揺れてきたのが実情である。かつて天安門事件の弾圧が起きて断絶した関係は冷戦終結後、EU側の強い経済利益上の関心から貿易・投資市場としての中国に対する期待へと変わった。そしていまやEUの最大の貿易相手国は中国だ。

昨年末、バイデン米政権誕生直前に駆け込むようにして締結された「EU・中国包括的投資協定」はEUの中国に対する経済的関係が容易に切り離しがたいことを物語っている。

EUのジョゼップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表(外相に相当)は3月末の週刊レポートで、「EUは『二極対立』や『新冷戦」への回帰を決して望まない」と断言する。欧州は米国とはその点では一線を画している。

それは米中対立が招く国際的な不安定が世界を利することはないからである。むしろ欧州が意図するのは「多極的世界」における勢力均衡だ。

中国は米・EU双方にとって最大の貿易相手国である。西側の価値観やデモクラシーの尊重は大切だが、もはやイデオロギー対立の時代ではない。実利を尊重していく中でルールを基礎とする安定のための多国間協力を進めていき、対立を緩和させていくべきだというのがEUの基本姿勢だ。

米中衝突の危険をいかに回避するか。むしろそのための役割をEUは模索する。紙幅の関係で論じえないが、その背景にはトランプ政権で増幅した対米不信と中国への依存を軽減したい欧州の「戦略的自立」の発想がある。

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