最新記事

細菌

銅を安全に抽出・精製できる細菌が銅鉱山で見つかった

2021年4月28日(水)18時30分
松岡由希子

銅の抽出や精製には人体にリスクが伴っていたが...... FactoryTh-iStock

<銅の抽出や精製には人体に有害な二酸化硫黄に曝露するリスクがあるが、安全かつ効率的に銅を抽出・精製する手法となる可能性のある細菌の働きがみつかった...... >

銅は、熱や電気の伝導体として電線や屋根材、配管に用いられるなど、様々な用途で幅広く普及している金属のひとつだ。米国の銅開発協会(CDA" target="_blank">CDA)によると年間で約1250万トンが採掘されている。

一般に、銅の抽出や精製には、刺激の強い化学薬品による処理が必要で、人体に有害な二酸化硫黄や二酸化窒素に曝露するリスクがあるのに加え、大量のエネルギーを消費する。

ブラジルの銅鉱山で生息する細菌の働きに着目

米ヒューストン大学やブラジル・サンパウロ大学らの共同研究チームは、銅鉱山で生息する細菌の働きに着目し、2021年4月23日、オープンアクセス科学ジャーナル「サイエンス・アドバンシス」で「銅鉱山の桿菌が硫酸銅イオン(CuSO4)を安定的な単原子のゼロ価銅(Cu0)に変換することを発見した」との研究論文を発表した。

研究チームは、ブラジル北部パラー州の銅鉱山から桿菌(かんきん:個々の細胞の形状が細長い棒状の細菌)を単離し、原子分解能分析電子顕微鏡(NeoArm)でこれを分析した。桿菌に1リットルあたり100ミリグラムの硫酸銅イオンを含んだフラスコの色は48時間後、銅色に変化し、銅原子が生成されたことを示した。

この桿菌は、一連のタンパク質を含む独自の生物学的経路を用いて二価銅(Cu2+)を抽出し、ゼロ価銅(Cu0)に変換した。このような変換プロセスは好気条件下で自然に行われている。

つまり、桿菌は、このプロセスによって、より毒性が弱く、生息しやすい環境をつくりだしているわけだ。

桿菌によって銅を抽出する手法の実用化に向けて

研究チームは、既存の手法よりも安全かつ効率的に銅を抽出・精製する手法として、この研究成果を応用できるのではないかと期待を寄せている。

また、同様の機能を持つ細菌がこの桿菌の他に存在する可能性もある。研究チームでは、桿菌によって銅を抽出する手法の実用化に向けて、今後、さらに研究をすすめていく方針だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECB、賃金やサービスインフレを注視=シュナーベル

ビジネス

焦点:連休中の為替介入警戒、取引減で再動意も 米当

ビジネス

LSEG、第1四半期決算は市場予想と一致 MSとの

ワールド

北朝鮮製武器輸送したロシア船、中国の港に停泊 衛星
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中