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難民が受け入れ国の「市民」になるには何が必要か...戦禍を逃れた人々の切なる願い

REFUGEES NO LONGER

2021年4月22日(木)11時44分
アンチャル・ボーラ

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ドイツ連邦移民・難民局 FABRIZIO BENSCHーREUTERS


国内在住のシリア人には、適切な用語を注意深く当てはめなくてはならないと、シュピースは言う。

「一律に『難民』と呼ぶべきではない。ドイツ人の場合と同様に、従業員、親、失業者など、社会における立場や役割に応じた呼び名を用いる必要がある。難民として言及すべきなのは、難民としての背景が重要になる場合だけだ。例えば、彼らが職に就いていないのは、難民であるためにドイツ語が不自由だからだ、というように。そうすれば当事者にとっても、社会への統合に取り組む政府にとっても助けになる」

1951年に国連が採択した難民の地位に関する条約(難民条約)の定義によれば、難民とは「政治的意見」などを理由に、帰国すれば迫害される恐れがある人たちのことだ。

専門家によると、反体制運動に積極的に参加したシリア人の場合は差し迫った迫害の脅威がある一方、そうでないシリア人もより一般的な脅威に直面する。だが、シリア政府は帰国者を手当たり次第に逮捕していることで悪名高く、どんな人も安心して送り返すことはできない。

さらに欧州は人道に対する罪でアサド政権を非難し、関係回復を拒んでいる。政府間の協力が不在なら、帰国するシリア人の身の安全の保証を取り付けるのは不可能だ。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の指針では、問題が恒久的に解決されない限り、難民の送還や強制帰国を行ってはならない。言い換えれば、政治家にとって難民をめぐる選択肢は自発的帰国、第三国への再定住、または市民権取得を最終ステップとする統合のどれかだ。

難民の地位が付与する保護はあくまでも不可欠だが、難民という言葉自体はシリア人を1つの集団として隔離し、極右勢力の格好の攻撃対象にしている。蔑称として使われがちな用語にくくられるのではなく、それぞれの貢献を認められたいとも、多くのシリア人は願っている。

「私はドイツで働き、ドイツで税金を払い、暮らしている。ほかのどんなドイツ人とも変わらないつもりだ」。16年にドイツにたどり着いたシリア人のオマール(仮名、シリアに住む家族の身を案じ、名を明かさないことを希望)は、居住するデュッセルドルフで筆者にそう語った。

爆弾攻撃にさらされ、当局の迫害を受けたシリアでの生活を振り返り、ドイツで生きがいのある安全な暮らしを手にしたと、オマールは話す。入国直後に難民に認定され、有効期限3年間の滞在許可証も更新できた。

とはいえ、もう自分を難民とは考えていない。ドイツ語を習得し、自動車会社に就職し、今では自らの稼ぎで生活している。ドイツ市民として生きる決意は固まっており、ドイツでの居住期間が6年間に達して市民権の申請条件を満たしたら、すぐに手続きを始めるつもりだ。「模範的な移民で、模範的な市民になろうと努力している」

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