最新記事

北朝鮮

「死刑囚の目がキョロキョロと...」北朝鮮の公開処刑「最前列」の目撃証言

2021年4月8日(木)15時51分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載
平壌市民

日時が特定できた公開処刑は7件あった Danish Siddiqui

韓国のNGOである軍人権センターは先月30日、ソウルで開いた討論会で、北朝鮮軍の人権実態調査の結果を発表。調査に協力した脱北者30人のうち26.7%に当たる8人が軍服務中に公開処刑を目撃していたと明らかにした。

同センターは、2019年7月から2020年6月にかけて韓国に入国した脱北者のうち、軍服務経験のある30人を面接調査。また、北朝鮮軍の人権実態に関する文献も分析したという。ちなみに、日時が特定できた7件の公開処刑の執行時期は1990年代が3件、2000年代が3件、2010年代が1件だったという。

一方、同センターが同時に発表した報告書には、公開処刑を目撃した元軍人の生々しい証言も収録されている。たとえば、2008年に行われた公開処刑に関しては、次のような証言がある。

「事件が起きてひと月も立たずに銃殺を執行しました。それで、私たちが最前列に座らされて。軍人たちがいちばん前に座らされて(中略)実際、いちばん前で見たくはなかったのだけど(中略)近い距離からだから見えるじゃないですか。(死刑囚が)目を閉じたり開けたりして、生きているんです...(中略)眼だけはキョロキョロしているんです」

公開処刑は恐怖政治の一環であり、「見せしめ」のために行われる。そのため北朝鮮当局は、もっとも恐怖を与えたい人々に対し、公開処刑を最前列で見ることを強いるケースが珍しくない。

<参考記事: 女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー

この処刑では、死刑囚が軍人だったため、軍人を最前列に座らせた。同様に、死刑囚が芸能人ならば、芸能人を最前列に並ばせるのだ。芸能人が処刑されたケースでも、同様に生々しい証言が伝えられている。

ところで、証言はともかく、上記のような数字を見てどう思うだろうか。日本の読者の一般的な感覚なら、これでも十分にショッキングかもしれない。だが、北朝鮮における人権侵害を継続的にウォッチしている立場から見ると、「意外と少ない」と感じるのが本当のところだ。

同センターは、兵士らの士気を考えて、軍内での公開処刑は控えめにされているのだと説明している。一理ある分析だ。だがそうした傾向も、その時々の情勢から大きな影響を受けるものであるように思える。たとえば昨年8月、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の穏城(オンソン)郡では、国境警備で怠慢があったとの理由により、一度に5人もの軍人が処刑されたとの情報がある。

あるいはこうした一連のデータや情報は、金正日前政権の後期と比べ、2012年から本格的にスタートした金正恩政権の暴虐さが勝っていることを示唆しているのかもしれない。

<参考記事: 北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英住宅売却希望価格、6月として14年ぶりの大幅下落

ワールド

インドのモディ首相、キプロス訪問 貿易回廊構想の実

ワールド

イスラエル・イラン衝突、交渉での解決が長期的に最善

ビジネス

バーゼル銀行監督委、銀行の気候変動リスク開示義務付
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中