最新記事

新型コロナウイルス

意識障害、感情の希薄化、精神疾患...コロナが「脳」にもたらす後遺症の深刻度

HOW COVID ATTACKS THE BRAIN

2021年4月2日(金)11時29分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

「ウイルスは鼻から入って、肺、腎臓、肝臓に侵入できる」と、コルドンカルドは言う。「今では脳に到達することも分かっている。血管に入り、トンネルを移動するように循環するからだ。そして特定の場所で合流して、臓器にダメージを与えることがある」

エール大学の岩崎明子教授(免疫生物学)らは、幹細胞由来の神経細胞とそれを補助する細胞の小さな「コロニー」を培養し、この「オルガノイド(ミニ臓器)」を新型コロナに接触させてみた。

ウイルスはすぐに神経細胞の一部に感染した。感染した神経細胞は代謝機能を異常に活発化させ、細胞の増殖メカニズムを利用して自己複製を加速させた。この猛烈なウイルスの増殖過程で、感染細胞は周辺領域の酸素を「全て吸い出し」、近くにある神経細胞から不可欠な栄養分を徐々に奪い取ることで、「死のスパイラル」に陥らせる。

この「バイスタンダー効果」と呼ばれる周囲への影響は、カリフォルニア大学サンディエゴ校のアリソン・ムオトリ教授(小児科学・細胞分子医学)が行った脳オルガノイドの実験でも観察された。

オルガノイドのコロニーを新型コロナに接触させると、ウイルスはごく一部の神経細胞に感染しただけだったが、その影響は甚大だった。ウイルスは48時間以内にさまざまな細胞間のシナプス結合の50%を破壊したのだ。これは脳に大きなダメージを与える可能性がある。

ウイルスか自己免疫反応か

遅れて発症する神経症状の一部は、脳の細胞に潜むウイルスによるものとも考えられる。感染細胞から神経毒か炎症反応を促す物質が放出され、周辺の細胞が破壊されるのではないかと、ムオトリはみている。

だが、脳に潜むウイルスが悪さをするという仮説は解剖結果と一致しない。岩崎らが解剖した脳損傷が見られる3体の遺体のうち、脳内へのウイルスの侵入がはっきり確認できたのは1体だけだった。ブライスが調べた63人の脳のうち、ウイルスの断片が残っていたのは1人だけ、彼らが損傷を初めて確認したヒスパニック系の患者の脳だけだった。NINDSのナスも今のところ、脳のウイルス感染の兆候は発見していない。

これは「大きな謎」だと、ナスは言う。「私の専門は神経系の感染なので、パンデミックのたびに脳を調べてきた。(新型コロナの死者の脳では)ウイルスを全く検出できないので、非常に驚いている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪総選挙は与党が勝利、反トランプ追い風 首相続投は

ビジネス

バークシャー第1四半期、現金保有は過去最高 山火事

ビジネス

バフェット氏、トランプ関税批判 日本の5大商社株「

ビジネス

バフェット氏、バークシャーCEOを年末に退任 後任
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 8
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 9
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 10
    海に「大量のマイクロプラスチック」が存在すること…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中