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米司法

右傾化した米連邦最高裁の「死のノート」判決 トランプ退任後も乱発

2021年3月27日(土)09時50分

ドナルド・トランプ前大統領が1月に退任するまでの数ヶ月間、連邦最高裁判所は、連邦レベルの死刑囚13人に対し、連邦レベルでは17年ぶりとなる死刑執行への手続を急ピッチで進めた。写真はリベラル派のソニア・ソトマイヨール判事、1月にワシントンで代表撮影(2021年 ロイター/Win McNamee)

ドナルド・トランプ前大統領が1月に退任するまでの数ヶ月間、連邦最高裁判所は、連邦レベルの死刑囚13人に対し、連邦レベルでは17年ぶりとなる死刑執行への手続を急ピッチで進めた。

13件の多くにおいて、連邦最高裁は「シャドー・ドケット(闇の台帳)」と呼ばれる不透明な法的手続を駆使し、下級裁判所の判断をあっさりと却下している。だが、これは緊急事態のみに備えた略式の手続きであり、死刑執行への適用は想定されていない。だが過去4年間、この手法によって連邦最高裁の仕事の進め方は大きく変化した。

連邦最高裁がさまざまな重大事件の判決において「シャドー・ドケット」に頼る例はますます増加している。驚くほど迅速に手続が進められ、判事の署名入りの意見や詳細な説明が欠けていることも多い。死刑執行のように、その決定が取り返しのつかない結果をもたらす場合もある。

トランプ政権下の申請、20倍に増加

「シャドー・ドケット」扱いとされた事件は、下級裁判所での審理が続いていても、実質的に決着してしまう場合がある。すべての証拠が明らかになっていない場合さえある。公開の議論もなく、類似の事件の分析方法について下級裁判所への指針も示されないまま、深夜に決定が下されることもある。

この性急さと秘密性に対して、右派・左派問わず法律専門家からの批判が集まっている。連邦最高裁のきわめて大きな権力を乱用している、という指摘だ。

「シャドー・ドケット」という言葉を考案したシカゴ大学法科大学院の保守派研究者、ウィリアム・ボード教授(法学)は「何が起きているのか人々が知ることは困難で、連邦最高裁が最善を尽くしているという信頼も得にくい」と語り、透明性の向上を訴える。

「シャドー・ドケット」との認定を受けるには、訴訟当事者が連邦最高裁判事の1人に申請すればいい。その判事が、判事全員による検討にかけるか否かを判断する。申請を認めるためには、9人の判事のうち5人の賛成が必要だ。口頭での審理は行われず、他方当事者の弁護士は反論趣意書を提出することができる。申請が認められるには所定の基準を満たさなければならない。認められない場合に申請者が「回復不能の損害」を被ることも条件の1つだ。

一般の人々から見れば、連邦最高裁は、詳細な状況説明、口頭での弁論、法律を説明する長大な判決文を通じて、国家的に重要な問題を解決するものである。だが、トランプ政権下では、実質的な「シャドー・ドケット」決定の件数が激増した。トランプ政権はこの4年間、2期8年ずつ続いたブッシュ、オバマ両政権の20倍のペースで「シャドー・ドケット」申請を提出してきた。連邦最高裁はそのうち過半数の事件についてトランプ政権の申請を認めてきた。

バイデン氏の政策、阻止される懸念

トランプ政権後も、連邦最高裁は「シャドー・ドケット」を使い続けている。2月に見られた複数の事件を含め、最近の例では、過半数を占める保守派判事が、教会は新型コロナウイルス感染拡大防止のために州政府が出した命令を守る必要はないと決定している。通常のように、双方の主張を述べるための弁論の機会は与えられなかった。

「何ら理由を示すことなく(連邦最高裁判事が)重大な決定を下せるのであれば、事実上の制限なしに何でもできてしまう」と米国自由人権協会で法務ディレクターを務めるデビッド・コール氏は語る。

連邦最高裁は広報担当者を通じて、コメントを控えるとしている。

連邦最高裁では保守派が6対3と優位を占めており、こうした略式の決定プロセスにより、移民や環境保護、人工妊娠中絶や性的少数者(LGBT)の権利といった社会問題などのテーマに関し、ジョー・バイデン大統領の政策目標が中途で阻止されてしまう可能性もある。

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