最新記事

BOOKS

銃社会アメリカの「スキルの低い警官」と警察内人事制度の関係

2021年3月15日(月)16時55分
印南敦史(作家、書評家)
『アメリカの警察』

Newsweek Japan

<なぜ銃規制が一向に進まないのか。なぜ白人警官による黒人市民の殺害が起こるのか。それを知るためには、アメリカの複雑な警察組織を理解する必要がある>

米ミネソタ州ミネアポリスで「ジョージ・フロイド事件」が起きたのは2020年5月のこと。アフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイド氏が白人警官に首を8分46秒圧迫され命を落としたこの事件は、「BLM(ブラック・ライブズ・マター)」運動へ結びついていった。

そのため必然的に警察への批判が高まっていったわけだが、批判の根底にあるもの、そして白人警官による黒人市民への一方的な殺害行為が起こる"背景"が見えにくいことも事実だ。


 この問題はアメリカという社会の暗部であるが、同時にアメリカの警察組織が苦闘している問題でもある。そして、その背景には銃社会アメリカという問題がある。憲法が、国民の「武装の権利」を事実上認めているアメリカでは、警察の治安維持行動にも困難が伴っている。
 そんな中で、個々の警察官の多くは誇りを持って仕事をしているし、多くのコミュニティでは市民が警察に信頼を寄せているのもまた事実である。(「はじめに」より)

『アメリカの警察』(冷泉彰彦・著、ワニブックスPLUS新書)の著者は、米国在住のジャーナリスト・作家としての立場からこう指摘する。そこで本書では、「苦しみつつも日々のアメリカを支えている警察」の独自性に焦点を当てているのである。

大きな問題は、アメリカでは「大小さまざまな警察組織がバラバラに独立していて、その全体が混沌としながらも秩序を作っている」点にあるようだ。組織と人事のあり方が非常に複雑だということで、本書でも第3章までがその構造の解説にあてられている。

まずはそこを理解しておく必要があるわけだが、そうした上でもなお気になってしまうのは、"進まない銃規制"や"人種差別"に焦点を絞った第4章以降だ。

深刻な銃乱射事件が頻発しているにもかかわらず、なぜアメリカ社会では銃規制の議論が進まないのだろうか。

共和党が銃規制に反対していること、そしてその背後にあるNRA(全米ライフル協会)の存在が原因であることは間違いないだろう。2017年から2021年1月にかけてのトランプ政権時代に、NRAを中心とした銃保有派の意見が国政を「ジャック」したような形になったことは記憶に新しい。

では、なぜNRAに代表される銃保有派はいつまでも強硬なのだろうか。著者によれば、そこには明確な理由があるらしい。


 銃保有派、そしてNRAは「自分たちが銃を持ち、銃が撃てるようになれば強くなれる」から銃を保有したいのではない。まして「何者かを攻撃したい」とか「殺したい」からではない。そうではなくて「自分たちが銃の被害に遭うのが怖い」から、そして「自分の家族を守りたいから」銃を持ちたがるのである。心の底から「自衛」したいし、「自衛しないと怖い」というのが銃保有派の心理である。(150ページより)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米高官、中国レアアース規制を批判 信頼できない供給

ビジネス

AI増強へ400億ドルで企業買収、エヌビディア参画

ワールド

米韓通商協議「最終段階」、10日以内に発表の見通し

ビジネス

日銀が適切な政策進めれば、円はふさわしい水準に=米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に共通する特徴、絶対にしない「15の法則」とは?
  • 4
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中