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「ニッポンは今や貧困国になった」 この厳しい事実に気付かない人が多すぎる

2021年3月9日(火)19時11分
相場 英雄(小説家)*PRESIDENT Onlineからの転載
建設現場の外国人労働者

「活気にあふれた香港から東京に戻ると、日本全体が寂れたシャッター街のように見える」と相場英雄氏は語る。REUTERS - Thomas Peter


いまや日本社会は外国人労働者なしには成り立たない。それは健全なのか。作家・相場英雄氏は最新刊『アンダークラス』(小学館)で、外国人技能実習生の問題を取り上げた。相場氏は「日本人は貧乏になった。だから労働力を外国人に頼らざるを得ない。その事実に気付いていない人が多すぎる」という――。

ニューヨークでは「ラーメン一杯2000円」が当たり前

──『アンダークラス』で技能実習生の問題に着目したいきさつを教えてください。

僕の仕事場は新宿・歌舞伎町の近くにあるのですが、この数年、人の流れが目に見えて変わってきました。

朝方、24時間営業のハンバーガーチェーンで、大きなバックパックを背負った配達員が眠りこけている。その隣には、たくさんの荷物が入った手提げ袋を抱えた若いホームレスが力尽きたように休んでいる。外には店内に入れずに一晩中、歩いている人がいる。しかも、ハンバーガーチェーンやコンビニで深夜から早朝に働いている店員は、ほとんどが外国人。いびつな風景だと感じました。

日本は、いったい、どんな国なのか。なにかがおかしい。そんな違和感が、外国人労働者や、技能実習生に注目したきっかけでした。

もう一つが、海外での体験です。

数年前、ニューヨークに行く機会があり、ラーメンを食べました。日本では通用しないマズいラーメンが一杯2000円。小皿料理を注文し、ビールを飲んだら5000円を超えました。これはアメリカの経済が成長を続け、物価も給与水準も上がっているからです。一方、日本は経済が低迷し、物価が下がり続けています。日本はもはや先進国ではない、と感じたのです。

「日本人はとっくにお金持ちじゃなくなった」

──作中に登場するベトナム人技能実習生の「日本人はとっくにお金持ちじゃなくなった」というセリフが印象的でした。

それが外国人の実感だと思いますよ。

4年前、取材旅行で訪ねた香港で、紹介制の高級レストランに行きました。店の前にはリムジンがずらりと並び、店内にいるさまざまな国の人たちは一目で裕福だとわかりました。日本人のわれわれが、明らかにもっとも金がない存在でした。

活気にあふれた香港から東京に戻ると、日本全体が寂れたシャッター街のように見えました。にもかかわらず、ほとんどの人が日本が転落した現実に気づいていません。

2000年代に入り、タイやベトナムなどの東南アジアの国々も一気に経済成長しました。日本が1950年代から70年代に約20年もかけて達成した高度経済成長を、わずか5年から10年程度で成し遂げつつある。少し前まで、アジアの国々に対して、日本が面倒を見ている発展途上国というイメージで捉えていた人が多かったのではないかと思いますが、いまその国々が日本を上回りつつある。

インバウンドが増えていたのは、日本の物価が安いから

──この数年、「日本食がおいしい」とか「日本の伝統文化がスゴい」というテレビ番組が人気ですが、経済が後退した反動なのかもしれませんね。

コロナ以前は、インバウンドが増えていました。もちろん日本への憧れをもって来日する人もいたとは思います。しかし、もっと違う理由があるのではないかという気がしていました。

一昨年まで高校時代から北米に留学した息子の友だちが、よく日本に遊びにきていました。当初、気を遣って「狭いけど、うちに泊まるか?」と聞いていた。でも「大丈夫。日本は物価が安いから。インペリアルのスイートに泊まれる」と言うんです。確かに、帝国ホテルの値段では、アメリカの中堅ホテルにも泊まれない。日本の物価が安いからインバウンドが増えた。そう考えると日本をめぐる現状が腑に落ちてきます。

雇用状況を見てもそうでしょう。物価が下がり続けるから、もっと安い労働力が必要になる。そこで、格差が激しく、いまも貧しい生活を強いられているベトナムやミャンマーなどの農村から来日する技能実習生という名の労働者に頼るしかなくなった。

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