最新記事

中韓関係

韓国が怒る中国の「文化窃盗」、その3つの要因

CHINA “STEALS” KOREAN POET

2021年3月11日(木)20時45分
チェ・ソンヒョン

この少数民族は尹の一族のように、19世紀末から20世紀初頭にかけて日本の植民地支配を逃れようと満州に渡ってきた朝鮮人の子孫だ。その朝鮮系少数民族は中国に住んでいるのだから、彼らの伝統も中国文化の一部だというのが中国の言い分だ。

朝鮮文化を「中国文化」と主張するのは、朝鮮系少数民族を中国に同化させ、彼らの住む延辺朝鮮族自治区への支配を正当化するための布石でもある。紛争や分離独立運動の芽を摘むために少数民族を単一のアイデンティティーに統一しようとする中国共産党の戦略が最も顕著に表れているのは、ウイグルやチベットの文化に対する弾圧だ。中国籍ではない朝鮮系の尹を「中国人」と規定したい理由がここにある。

第3に、中国政府はここ数年、国内外の危機に対処するためにナショナリズムを利用して党による統治の正統性をアピールしてきた。米中貿易戦争や新型コロナウイルスの感染拡大は経済と社会に打撃を与えたが、愛国心を刺激して他国を敵視するよう国民感情をあおればガス抜きになり、国民の結束と党への忠誠心も強まる。そのために中国政府が利用しているのが、韓国との文化論争だ。

「アメリカとの戦略的競争が激化すると、習近平(シー・チンピン)政権は愛国主義的な教育を推進した。その結果、中国の若者は非常に反米的になり、愛国心が強くなった」と、韓国国立外交院のキム・ハングォン教授は指摘する。「中国が今後もナショナリズムを打ち出していく可能性は高い。韓中間の摩擦はしばらく続くだろう」

だが中国の文化帝国主義は、近隣諸国との摩擦を生んでいる。米ピュー・リサーチセンターの昨年の世論調査では、中国に好意的ではない感情を抱く韓国人が75%にのぼった。

韓国の反中感情は、アジア太平洋地域でアメリカに対抗したい中国にとっては良い兆候ではない。韓国政府の協力を得られなくなる可能性があるからだ。

いま中国に求められるのは、自らの主張を再考し、韓国とコミュニケーションを取ることだろう。

From thediplomat.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比4.3%増 民間航空
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中