最新記事

地球

地球の上層大気で「宇宙ハリケーン」が初めて観測される

2021年3月4日(木)18時30分
松岡由希子

直径1000キロ超のハリケーンのようなプラズマの塊が発生していた...... Qing-He Zhang, Shandong University

<米国軍事気象衛星「DMSP」による観測データを分析したところ、2014年に地球の上層大気で宇宙ハリケーンが発生していたことを初めて確認した......>

中国・山東大学や英レディング大学らの国際研究チームは、米国軍事気象衛星「DMSP」による観測データを分析し、2014年8月20日に地球の上層大気で宇宙ハリケーンが発生していたことを初めて確認した。

その研究成果は、2021年2月22日、オープンアクセスジャーナル「ネイチャーコミュニケーションズ」で発表されている。

直径1000キロ超のハリケーンのようなプラズマの塊

地球の下層大気では、暖かい海域でハリケーンがたびたび発生している。暖かく湿った空気が上昇すると、低気圧ができて周囲の大気が吸い込まれ、非常に強い風が吹き、渦巻き状の雲ができて大雨をもたらす。

これまでに、火星、土星、木星でも、地球の下層大気でのハリケーンに似たハリケーンが観測されているが、地球の上層大気で宇宙ハリケーンが観測されたことはない。

研究論文の共同著者でレディング大学のマイケル・ロックウッド教授は「これまでは上層大気で宇宙ハリケーンが存在するのかどうかですら、定かでなかった。今回の観測によってこれが証明されたことは画期的だ」と評価している。

研究チームは、「DMSP」4基が観測したデータをもとに、3D磁気圏モデリングによって宇宙ハリケーンの様子を表した3D画像を作成した。

matuoka20210304cc.jpg

Qing-He Zhang, Shandong University

複数の渦状の腕を持つ直径1000キロ超のハリケーンのようなプラズマの塊は、2014年8月20日午後12時頃から北極の上空110〜860キロに現れ、最速で秒速2100メートルの速度で反時計回りにグルグル回り、雨の代わりに電子を降らせた。

matuoka20210304b.jpg

Qing-He Zhang, Shandong University

なお、その中心部は、下層大気でのハリケーンの目と同様に穏やかであった。この宇宙ハリケーンは約8時間続き、徐々に衰退した。

太陽風エネルギーと荷電粒子の急速な移動によって

ロックウッド教授は「熱帯低気圧が大量のエネルギーと関連していることを鑑みると、宇宙ハリケーンは、太陽風エネルギーと荷電粒子が大量かつ急速に上層大気へ移動することによってできるのだろう」と考察。また、「惑星大気中のプラズマや磁場は宇宙全体に存在するため、宇宙ハリケーンは広範囲に見られる現象だと考えられる」と述べている。

研究論文の筆頭著者で山東大学の張清和教授は「地球の上層大気での宇宙ハリケーンの観測は、太陽風-磁気圏-電離圏結合系の解明につながる」と指摘

そのほか、宇宙天気のさらなる解明や、衛星の抗力の増加、高周波無線通信の障害、衛星航法のエラー増など、宇宙天気がもたらす影響についての研究にも役立つと期待されている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中