最新記事

イギリス

聞こえてきた英連合王国分裂の足音

2021年3月2日(火)14時45分
伊藤 さゆり(ニッセイ基礎研究所)

しかし、EU離脱を強制された現在では、独立は、EU再加盟の道を拓く希望となる。ジョンソン政権は、自治権の拡大や連邦化は否定しており、スコットランドの独立阻止の明確な戦略があるとは言い難い。ジョンソン政権内の内紛で、連合王国の求心力維持のために立ち上げた「連合ユニット」のトップに就任した首相の側近が僅か2週間で辞任に追い込まれるなど体制も定まらない。

そもそも離脱キャンペーンを主導した首相とその側近らが、スコットランドのつなぎ留めに役立つと考えることに無理がある。世論調査でスコットランドにおける独立支持が不支持を上回るようになったのはEUを正式離脱した後であり、スコットランドの民意を切り捨てた離脱の強行が、ジョンソン首相の政治手法やコロナ対策への不満も加わって、スコットランドの独立機運を高めていると考えられる。

スコットランドの独立は経済的な打撃が大きいという独立反対派の主張は今も基本的に正しいが、財政や年金、経済への打撃に関する試算は、独立阻止のための嘘と見る独立賛成派もいるだろう。「経済的打撃は独立して主権を取り戻すコストとして敢えて受け入れる」という判断が加われば、独立支持が過半を上回る可能性は十分にある。ちょうど英国が、主権の奪還のために、EUからの「ハードな離脱」へと進んだように。

2016年のEU離脱の是非を問う国民投票では、ジョンソン首相らが率いた離脱キャンペーン団体は、EU離脱のコストを強調したキャメロン元首相らの残留キャンペーンを「恐怖プロジェクト」と揶揄した。

そのジョンソン政権が、スコットランドの独立機運を削ぐために、独立の経済的なコストを強調する「恐怖プロジェクト」に訴え、却ってスコットランドを独立に近づけてしまう皮肉な展開になるのだろうか。

ItoSayuri_Profile.jpeg[執筆者]
伊藤 さゆり (いとう さゆり)
ニッセイ基礎研究所
経済研究部   研究理事

ニューズウィーク日本版 高市vs中国
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月27号(1月20日発売)は「高市vs中国」特集。台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

デンマークとグリーンランドの首相、独仏首脳と会談へ

ワールド

カナダ、インドへのエネルギー輸出拡大検討 対米依存

ワールド

対米投融資、人工ダイヤ生産事業が有力に 「第1号」

ビジネス

欧州銀行連盟、EUに規制改革要求 競争力低下を警告
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化はなぜ不可逆なのか
  • 3
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに...宇宙船で一体何が?
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中