最新記事

教育

不登校はもう問題行動ではない 情報化社会で変わりゆく学校の役割

2021年2月3日(水)13時20分
舞田敏彦(教育社会学者)

技術的な進歩も登校意欲の低下に繋がっているかもしれない Maria Symchych-Navrotska-REUTERS

<学校が「聖域」ではなくなった今、学校でしかできないことを説明できなければ子どもを呼び戻すことはできない>

日本の文科省は毎年、「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査」を実施し、結果を公表している。問題行動の公的統計といったらコレだ。

メディアでは、いじめの件数に注目されることが多い。毎年過去最多を更新しているが、これはいじめの把握に本腰が入れられているからだ。いじめの認知件数が、学校側の把握の姿勢に左右されるのはよく知られている。都道府県比較をしている記事を見かけるが、あまり意味はない。児童生徒数当たりの件数が多い県は、むしろ褒めたたえた方がいい。

いじめと並行して、不登校も毎年増え続けている。不登校(学校嫌い)という理由で年間30日以上休んだ子どもの数で、これは当局の恣意には動かされにくい。小・中学校の不登校児の数をグラフにすると、<図1>のようになる。原資料に出ている、1991年以降の推移だ。

data210203-chart01.png

2001年度まで上がり続けた後、微減の傾向になるが、2012年度以降は再び上昇している。2019年度の不登校児は18万1272人で過去最多だ。

少子化で児童生徒の全数は減っているので、不登校児の出現率は上がっている。1991年度では0.47%だったのが、2019年度は1.88%だ。中学生に限ると3.94%、およそ25人に1人となる。最初の上昇の局面(2001年度まで)は、平成不況の深刻化により、親が失職するなどして家庭の状況が急変し、精神的に不安定になったことも考えられる。

第2の上昇局面はどうだろう。学校不適応が増えていることは疑い得ないが、自宅にてネット動画等で勉強できるので、学校に行くインセンティブが薄れている、ということはないだろうか。ネットの普及はだいぶ前からだが、2012年以降の特徴はスマホという小型機器が出回っていることだ。良好な教育動画(無料)もYouTube等で配信されるようになり、その質といったら学校の授業顔負けだ。

学校の存在意義が揺らいでいる

ネットビジネスで月収数百万円を稼ぐ、ものすごい中学生も出てきている。こういうビジネスへの参入に年齢の壁はなく、子どももどんどんトライするようになっている。それにのめり込み、学校には月数回しか行かない。親や教師も公認だ。

情報化社会の中で、学校という四角い空間の存在意義が揺らいでいる。不登校の要因としては「無気力、不安」というものが圧倒的に多い。「だるい、学校に行きたくない」というのは怠けのように思えるが、学校が子どもを繋ぎ止めるボンドは弱くなっている。昔のように、知を与えてくれる唯一の殿堂ではない。子どもが朝,無気力ととれる反応を示すのも無理からぬことだ。

不登校への認識が変わっていることを示す事実もある。文科省の問題行動調査の名称は、以前は「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」だったが、2016年度以降は「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」に変わっている。問題行動と不登校が切り離され、不登校は問題行動ではないという認識が表れている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中