最新記事

ロシア

ロシアの政権転覆が成功しない理由──ナワリヌイとエリツィンは違うから

An Impossible Revolution

2021年2月1日(月)18時40分
ジェフ・ホーン

ナワリヌイの釈放を求めロシア全土で大勢が抗議デモに参加 MAXIM SHEMETOV-REUTERS

<毒殺されかけ、ロシア帰国後に逮捕された反政府活動家ナワリヌイの釈放を求めて、何万もの市民が抗議デモを行っている。しかし、それがプーチン独裁の終焉につながる可能性は極めて低い>

厳寒のロシアで、何万もの市民が街頭に繰り出した。去る1月23日のこと、反政府派の著名活動家アレクセイ・ナワリヌイの即時釈放を求める抗議デモだった。

ナワリヌイは5カ月前、化学兵器に使われる神経剤ノビチョクで毒殺されかけ、ドイツで治療を受けていたが、1月17日に帰国した途端に逮捕された。今は首都モスクワ市内に収監されており、この先も不当な裁判で長期にわたり拘束が続く可能性がある。

ナワリヌイは自ら設立した「反腐敗財団」を通じて政財界の不正を次々と暴き、政権批判の旗を振ってきた。彼の逮捕後、同財団はウラジーミル・プーチン大統領の所有とされる豪邸の動画をネット上で公開した。その直前にも腐敗の根源だとするロシア国籍者8人の名前を公表し、経済制裁の対象に加えるよう西側諸国に求めている。

プーチンとその取り巻きが私腹を肥やし、そのせいで苦しい生活を強いられている国民に不満がたまっているのは周知の事実。だからこそ大規模な街頭デモも起きる。

しかし、それが民主的な革命やプーチン独裁の終焉につながると思うのは間違いだ。勇気あるナワリヌイの行動が国民のプーチン離れを加速する効果は期待できるが、直ちに体制転覆につながるとは思えない。なぜか。ナワリヌイは庶民レベルでこそ人気があるが、ロシア社会のエリート層には全国レベルでも地域レベルでも支持されていないからだ。そもそもナワリヌイの腐敗撲滅運動自体が、エリート層を標的にしている。

がんじがらめの体制

民主的革命を成就させるには、エリート層の内部にも仲間が必要だ。ロシアの歴史、そしてジョージアやウクライナといった周辺諸国における最近の民主革命を見れば分かる。2003年のジョージア、2014年のウクライナにおける政権交代は、いずれも体制内の亀裂に助けられていた。

ジョージアでは、当時の大統領エドアルド・シェワルナゼの求心力に衰えが見え、与党の幹部多数が野党にくら替えしていた。その代表格が2001年まで司法相だったミハイル・サーカシビリで、デモ隊による議会突入の先頭に立った。ウクライナも似たようなもので、当時の大統領ビクトル・ヤヌコビッチはエリート層から見放されていた。

そしてシェワルナゼもヤヌコビッチも、頼みの綱となる強力な治安部隊を持っていなかった。どちらの国の軍隊も徴兵制で、お世辞にも精鋭とは言えなかった。そして政治に口を出さないのが自分たちの生きる道と心得ていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、インドをWTO提訴 太陽光備品やIT製品巡り

ワールド

ウクライナ軍、東部シベルスクから撤退 要衝掌握に向

ワールド

グレタさん、ロンドンで一時拘束 親パレスチナ支援デ

ビジネス

ワーナー買収戦、パラマウントの新提案は不十分と主要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中