最新記事

アメリカ政治

米共和党の「分断」深刻 トランプが残した負の遺産

2021年1月20日(水)18時00分

米共和党が「弱虫」議員たちに支配されるぐらいなら、いっそ党をつぶした方がましだ――。トランプ大統領支持者たちによる連邦議会議事堂乱入事件の後、一部の同党議員たちがトランプ氏を非難して距離を取りつつあることに対し、米テキサス州西部ホックリー郡の共和党地区委員長、パット・コワンは本気でそう考えている。写真は6日、ワシントンで開かれた選挙結果への抗議集会の会場で撮影(2021年 ロイター/Shannon Stapleton)

米共和党が「弱虫」議員たちに支配されるぐらいなら、いっそ党をつぶした方がましだ――。トランプ大統領支持者たちによる連邦議会議事堂乱入事件の後、一部の同党議員たちがトランプ氏を非難して距離を取りつつあることに対し、米テキサス州西部ホックリー郡の共和党地区委員長、パット・コワンは本気でそう考えている。

コワン氏は、同郡レベランド市の自宅で「連中は民主党員か共和党員か、もはや区別がつかない」とあざけった。

彼女は、昨年11月の不正な大統領選で「勝利を盗まれた」とのトランプ氏の根拠なき主張を信じて疑わない。乱入事件の数時間後にバイデン氏勝利の認定に賛成したテキサス州選出の共和党下院議員たちに対し、怒りをたぎらせている。

もっと頭にきているのは、トランプ氏への弾劾訴追決議案に他州選出の共和党下院議員10人が賛成したことだ。コワン氏は「これで新党立ち上げを思い浮かべた人は多い。トランプ氏が党首になるというのが私の考えよ」と話す。

ロイターが20人余りのテキサス州の有権者や党幹部を取材したところ、多くが同様の考えを表明した。トランプ氏が大統領を務めた4年間のうちに、米国全体だけでなく共和党自体まで分断が進んでしまった事実が浮き彫りになった。

テキサスのような保守地盤の強固な州で、今後の選挙への出馬を目指す共和党の政治家たちは「選挙が不正だった」とのトランプ氏の虚偽の主張をずっと引き継いでいくよう、強い圧力を受けている。将来の選挙で票を入れるかどうかの有権者の判断で、トランプ氏への忠誠度が物差しにされてしまうからだ。

先週開かれたテキサス州議会では、選挙不正を防止する必要があるとして、郵便投票や期日前投票の制限を含む投票権の制約法案を、幾人かの共和党議員が提出した。ここにも、そうした忠誠心が垣間見える。

上院決選投票で共和党候補が2人とも敗北したジョージア州では、党内部が混乱の極みに達している。いずれも共和党のケンプ知事とラフェンスパーガー州務長官が、同州の大統領選結果を覆すようトランプ氏から手伝いを要請されて拒否。これをトランプ氏が猛然と批判したことで、同州フォーサイス郡の屋外広告ボードには先週、ケンプ氏とラフェンスパーガー氏を、投獄すべき「裏切り者のRINO(Republicans In Name Only=名ばかり共和党員)とののしるメッセージが掲げられた。

片やアリゾナ州共和党は、トランプ氏とかつて激しく衝突した故マケイン上院議員のシンディ・マケイン夫人ら何人かの有力党員について、トランプ氏への忠誠度が足りないと問責するかを近く採決する。

共和党内には、トランプ支持者にひたすら迎合すれば、同氏の下で大統領職と上下両院での優位をすでに失った同党が、取り返しのつかない痛手を負うことになると警鐘を鳴らす声もある。

複数の共和党ストラテジストは、トランプ氏が唱える根拠のない不正説を支持する政治家は、目先は報われるかもしれないが、結局は米国の選挙制度に対する有権者の信頼を損ない、党の信認と団結も同時に傷つくと警告する。

カリフォルニア州の共和党ストラテジストで、2008年の大統領選で共和党候補になったミット・ロムニー上院議員の顧問を務めたロブ・スタッツマン氏によると、この先米国と共和党が抱える問題は、あまりに多くの党員が「選挙は盗まれた」との間違った見方を自分たちの手で広めてしまったことだと語る。同氏は今、党内でトランプ氏を批判する急先鋒の1人だ。

16年の大統領選を目指したテキサス州のテッド・クルーズ共和党上院議員の陣営広報責任者だったアリス・スチュワート氏は、共和党員にとって目下一番大事なのは「うそをつくのをやめる」ことだと忠告した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

大和証G、26年度までの年間配当下限を44円に設定

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ弾道ミサイル発射=韓国軍

ワールド

ロシア、対西側外交は危機管理モード─外務次官=タス

ビジネス

中国4月経済指標、鉱工業生産が予想以上に加速 小売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中