最新記事

アイルランド

ブレグジットで高まる「統一アイルランド」への期待

Time for a United Ireland

2021年1月6日(水)18時15分
ジェリー・アダムズ(前シン・フェイン党党首)

1969年8月の「ボグサイドの戦い」から始まった北アイルランド紛争は98年の和平合意成立まで続いた PETER FERRAZ/GETTY IMAGES

<イギリスEU離脱の混迷とコロナ禍で、南北分割のデメリットと統一のメリットが明らかに──統一を訴える主張には、アイルランド全島から共感が寄せられている>

あなたがこの記事を読む頃には、ブレグジット(イギリスのEU離脱)に伴う通商交渉に合意が成立しているかもしれない。あるいは、成立していないかもしれない。

この「合意に基づく離脱か、合意なき離脱か」という議論は、英国民が2016年の国民投票でブレグジットを選んで以来、ずっと続いてきた。

あのとき北アイルランドとスコットランドが、EU残留を選んだことを忘れてはならない。それなのにテリーザ・メイ前首相とボリス・ジョンソン首相は、2つの地域の声を完全に無視してブレグジットを推し進めてきた。

それはブレグジットの中核には、「小英国主義」つまりイングランドの尊大な自意識と近視眼的な世界観があるからだ。そこで南北アイルランドの利益が考慮されたことは一度もない。

ようやくアイルランドに注目が集まったのは、1998年の北アイルランド包括和平合意が、ブレグジットによって脅かされる可能性が明らかになったときだ。

以来、EU加盟国であるアイルランドと、イギリスの一部である北アイルランドの間にハードボーダー(厳格な国境管理)が出現するのを防ぐために、アイルランド政府とEU当局者、そして米議会が懸命に努力してきた(その背後にはシン・フェイン党の働き掛けがあった)。

だが、北アイルランドがイギリスの一部である限り、ブレグジットはアイルランドにマイナスの影響しかもたらさないだろう。1998年の和平合意は一段と脅かされ、合意を受け、警察活動に人権を反映させるため定められた欧州人権条約に準ずる英人権法も廃止されそうだ(同法は、北アイルランド紛争における英軍の行動について、英政府の責任を問う意味合いもある)。

ブレグジットは、近年拡大してきたアイルランドと北アイルランドの協力関係(医療、エネルギー、環境、インフラなど156分野にわたる)も試練にさらすだろう。

これまでの経験から、アイルランド人は英政府が約束を守らないことを知っている。ジョンソンも例外ではない。だから今回EUとどんな合意を結ぶのであれ、ハードボーダーを回避することはないし、アイルランドの利益を守ることも、1998年の和平合意を維持することもないだろう。

ブレグジットをめぐる論争でプラス面が1つあったとすれば、アイルランド統一の関心が高まったことだ。

それはどのような形になるのか。どうすればアイルランドは、リパブリカン(強硬なアイルランド統一派)、ロイヤリスト(強硬なイギリス支持派)、ユニオニスト、カトリック、プロテスタント、そしてこうした伝統的な分類に当てはまらない多くの人が共存できる場所になれるのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は小幅続落、ファーストリテが320円押し下

ビジネス

英GDP、5月は前月比-0.1% 予想外に2カ月連

ビジネス

良品計画、25年8月期の営業益予想を700億円へ上

ビジネス

良品計画、8月31日の株主に1対2の株式分割
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中