最新記事

教育

飛び級、落第を許さない日本の「横並び」主義が生む教育の形骸化

2021年1月6日(水)16時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

日本では「落第は可哀想」と考えがちだが Milatas/iStock.

<ヨーロッパは「内容を理解していないのに進級させるのは可哀想」と考えるが、日本は「下の学年と机を並べさせるのは可哀想」と考える>

現在、文科省の中央教育審議会が令和の学校教育の在り方について審議中で、間もなく最終答申が出される見通しだ。

答申の素案を見ると、令和の学校で実現すべき子どもの学びは、「個別最適な学び」と「協働的な学び」に分けられるとされている。後者は人との関係やリアルの体験を通して学ぶ集団学習で、日本の学校が得意とするところだ。前者は個々人のペースに応じた学びで、外国人の子や発達障害児など、児童生徒の背景が多様化するなかで重要性が増してきている。

また、履修主義と修得主義を組み合わせることも提言されている。履修主義は、対象の集団に一定の期間で同じ教育を施すもので、形式的な教科の履修によって自動的に進級が認められる。修得主義は内容の習得度を重視し、そのレベルに応じて異なる教育内容を提供することで、原級留置や飛び級も頻繁に行われる。

履修主義は協働的な学び(集団)、修得主義は個別最適な学び(個)と対応している。上述のように個別最適な学びの必要性が高まっているので、修得主義の要素も入れないといけない、というわけだ。修得主義では内容の理解度が重視されるので、成績が振るわない子の原級留置(落第)は少なくない。逆にできる子は高度な内容を履修すべく、飛び級も認められる。

これらは日本の義務教育では皆無だが、他国では違う。国際学力調査「PISA」の対象は15歳だが、在籍学年が標準学年か、それよりも下か上かの分布をとると<図1>のようになる。

data210106-chart01.jpg

日本の場合、「PISA」に参加しているのは全員が高校1年生、つまり15歳生徒の標準学年ということになる。しかし他国を見ると、標準学年より下もいればその逆もいる。前者は落第、後者は飛び級の経験者だ。

オランダ、スロバキア、オーストリア、コロンビアでは、落第経験者が4割ほどいる。OECD加盟国以外は省いたが、ブラジルでは59.2%が標準学年より下となっている。落第が普通の国だ。これにはおそらく児童労働も関係しているだろう。

チェコ、ルクセンブルク、ドイツでは飛び級が多いようだ。できる子には「進級してもいい」と声を掛け、振るわない子には「ゆっくりやりなさい」と今の学年をもう一度繰り返すことを促す。否定的なレッテル貼りの性格はない。あくまで個に応じた内容の提供を目指す。日本でもこれから重視されるべき、個別最適な学びと通じる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

植田総裁、21日から米国出張 ジャクソンホール会議

ビジネス

中国のPEセカンダリー取引、好調続く見通し 上期は

ワールド

マスク氏が第3政党計画にブレーキと報道、当人は否定

ワールド

訪日外国人、4.4%増の340万人 7月として過去
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 10
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中