最新記事

アメリカ政治

次期大統領バイデンの公約実現に立ちはだかる米共和党重鎮マコネルの壁

2020年12月15日(火)21時03分

サードウエーのベネット氏は、共和党の抵抗が激しい場合、バイデン氏は大統領令を多用せざるを得なくなり、そうするとトランプ氏が任命した「敵対的な判事グループ」にも大統領令の正当性を訴えていかなければならなくなると懸念する。

マコネル氏の広報担当者は、バイデン次期政権とどう協力していくかとの質問に回答しなかった。マコネル氏はこれまで、11月に自身が民主党の対立候補に勝利した選挙戦の討論会の場などを含めて、バイデン氏の政策に関する直接的な言及はほとんど見当たらない。

上院では、新型コロナ関連緊急支出など予算調整ルール適用外の主要法案は、60人の賛成があれば採決に持ち込めるので、バイデン次期政権が10人もしくはそれ以上の共和党議員の支持を獲得すれば、マコネル氏もそうした意向を無視して自由には振る舞えない。

かつてマコネル氏の経済政策顧問で、現在は政治リスク分析会社ユーラシア・グループのマネジングディレクターを務めるジョン・リーバー氏は「共和党議員の間に何か行動すべきだとの雰囲気があるとマコネル氏が認識する法案なら、同氏はバイデン氏と協力する展開が全面的に見込まれる。そうした空気がなければ、彼に無理やり合意を実現させることはできない。共和党2人と民主党48人が支持する法案を通過させようとはしないだろう」と述べた。

見えない交渉手段

バイデン氏とマコネル氏は、24年間にわたって同じ上院議員として働いてきただけでなく、共和・民主両党の財政運営や政府機関閉鎖を巡るこれまでの政治対立で、直接折衝してきた仲だ。2012年の「財政の崖」に際しては、所得税の最高税率引き上げと大規模な歳出削減の撤回を盛り込んだ合意を共同してまとめ上げた。

マコネル氏は16年に出した自叙伝「長いゲーム、ある回想録」で、バイデン氏を「好ましく思った」人物で「協力が可能だった」と描写している。もっともマコネル氏はまだ正式にバイデン氏を次期大統領と認めておらず、祝意も表していない。大半の共和党議員もマコネル氏の姿勢に従っている。

バイデン氏が副大統領時代のように、マコネル氏やほかの共和党指導部との直接対話を再開するのかどうかも分からない。

次期副大統領のカマラ・ハリス氏と言えば、上院議員としてはマコネル氏としばしば政治的に真っ向から対決する姿勢を示してきた。例えば昨年12月には、トランプ氏の弾劾裁判に証人を呼ぶことをマコネル氏が阻止しており、職務を忠実に遂行していないと批判。「マコネル氏は上院による裁判ではなく、真相の隠蔽を望んでいる」とこき下ろした。

では次期財務長官に指名されたイエレン前連邦準備理事会(FRB)議長はどうか。バイデン氏が雇用拡大の手段として打ち出した、多様性の促進や子育て・教育などへの支出増といった幾つかの左派的政策に関して、イエレン氏は経済的な理論武装という面で重要な役割を果たしそうだが、マコネル氏より優位に立てるとは誰も予想していない。

イエレン氏はFRB議長として議会と直接交渉をした経験は乏しく、マコネル氏は13年にイエレン氏の議長指名に反対した。強いドルを支援する姿勢が不十分との理由からだった。

ブッシュ政権時代に財務省とホワイトハウスの報道官だったトニー・フラット氏は「イエレン氏が天性のロビイストだとは思えない」と肩をすくめた。

(David Lawder記者、Heather Timmons記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・アメリカ大統領選挙、敗残のトランプを待ち構える訴訟の山 検察による刑事捜査も
・巨大クルーズ船の密室で横行する性暴力


ニューズウィーク日本版 日本人と参政党
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月21日号(10月15日発売)は「日本人と参政党」特集。怒れる日本が生んだ参政党現象の源泉にルポで迫る。[PLUS]神谷宗弊インタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏

ワールド

ゼレンスキー氏、オデーサの新市長任命 前市長は国籍

ワールド

ミャンマー総選挙、全国一律実施は困難=軍政トップ

ビジネス

ispace、公募新株式の発行価格468円
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中