最新記事

メルケル

メルケル演説が示した知性と「ガースー」の知性の欠如

2020年12月15日(火)12時52分
藤崎剛人(ブロガー、ドイツ思想史)

この菅首相の振る舞いは、9日のメルケル演説と対比され、SNSで話題を呼んでいる。メルケルの情熱的に市民に訴えかける振る舞いに対して、菅首相の姿勢はパンデミックの危機にあってあまりにも不誠実にみえるというのだ。

知性に対する態度の落差

もちろん、首相は演説が上手ければよいというものではない。いかにその言葉に真心がこもっているようにみえようと、それ自体はひとつのパフォーマンス以上のものではない。しかしここで再度強調したいのは、メルケルの「情熱的な」の中に込められた知性への誇りについてだ。啓蒙の精神を土台とした政策決定を行っていく姿勢をみせることは、単なるレトリックではない。そのような言明を首相がすることによって、科学的なものに裏打ちされた公正な政策について議論可能な土壌が、政治的につくられるのだ。

「こんにちは、ガースーです」の第一声のもとニコニコ動画に出演した菅首相に、そうした知性に基づいた政治を行う気概はあるのだろうか。政策決定の公正さについて、アカウンタビリティを果たす責任感はあるのだろうか。残念ながら、これについては悲観的にならざるをえない。菅政権発足直後に発生した日本学術会議に対する介入をみると、この政権が知性に対してどのような立場を取っているかを推察することができる。

なるほどメルケルが言う通り、人は多くのことを無力化することができる。学問の自由もその一つである。医療崩壊の渦中にある人々の悲鳴や、「GoToキャンペーン」を停止すべきだとする専門家の意見も、無力化することができる。しかしこれもまたメルケルが言う通り、残念ながらファクトは無力化することはできない。新型コロナウイルスの脅威もその一つだ。

<執筆者>
藤崎剛人 北海道生まれ。東京大学大学院単位取得退学。埼玉工業大学非常勤講師。専門はドイツ思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ハーバー・ビジネス・オンライン』でも連載中で、人文知に基づいた時事評論や映画・アニメ批評まで幅広く執筆

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米セントルイス連銀総裁、雇用にリスクなら今月の追加

ワールド

トランプ氏、ウクライナ大統領と会談 トマホーク供与

ワールド

米ロ結ぶ「プーチン—トランプ」トンネルをベーリング

ビジネス

米中分断、世界成長に打撃へ 長期的にGDP7%減も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 5
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 9
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 10
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中