最新記事

凍結胚

27年間凍結されていた受精卵から女の子が生まれる──母娘は「同世代」......

2020年12月4日(金)16時30分
松岡由希子

受精して28年の「最年長の」赤ちゃん...... (Haleigh Crabtree Photography)

<1992年に凍結され、非営利団体「国立受精卵提供センター(NEDC)」で保存されていた凍結胚から女の子が生まれた。出生にいたった凍結胚としては最長記録となる......>

米テネシー州東部で、2020年10月26日、27年間保存されていた凍結胚から女の子が生まれた。出生にいたった凍結胚としては最長記録となる。

モリーと名付けられたこの赤ちゃんが生まれた受精卵は、1992年10月14日に凍結され、2020年2月10日までテネシー州ノックスビルの非営利団体「国立受精卵提供センター(NEDC)」で保存されていた。

テネシー州東部在住のギブソン夫妻がこの凍結胚と養子縁組をした後、2月12日、妻ティナさんの子宮に凍結胚を移植。ティナさんは11日後に妊娠し、10月26日、身長19インチ(約48.3センチ)、体重6ポンド13オンス(約3090グラム)のモリーちゃんを出産した。ティナさんは現在29歳で、モリーちゃんが胚として凍結されるわずか18ヶ月前に生まれた。いわば、ティナさんとモリーちゃんは「同世代」の母娘だ。

「正しく保存すれば、凍結胚は永久に良好な状態を保つとみられる」

ティナさんに凍結胚移植を行った国立受精卵提供センターの会長で医療ディレクターのジェフリー・キーナン医師は「保存期間が長いというだけで凍結胚を処分すべきでないことを示すものだ」とその意義を強調する。

また、国立受精卵提供センターの発生学者キャロル・ソンメルフェルト氏は、米タブロイド紙「ニューヨークポスト」で「零下396度の液体窒素保存タンクで正しく保存すれば、凍結胚は永久に良好な状態を保つとみられる」との見解を示している。

モリーちゃんが生まれる前、出生にいたった凍結胚として最長だったのは、モリーちゃんの姉にあたるギブソン夫妻の第一子エマちゃんだ。エマちゃんはモリーちゃんと遺伝子的にきょうだいで、1992年10月に胚として同時に凍結され、24年以上にわたって国立受精卵提供センターで保存されていた。

当時26歳のティナさんは、2017年3月15日、凍結胚移植(FET)によりエマちゃんを妊娠し、2017年11月25日に無事出産している。

約100万個の受精卵を凍結保存している

長年、夫とともに不妊に苦しみ、今では二児の母となったティナさんは、BBC(英国放送協会)の取材で「嬉しくてたまりません。今でも胸がいっぱいになります。5年前の自分に『2人の娘を授かりますか』とたずねたら、『そんな馬鹿な』と答えたでしょう」と喜びを語っている。

2003年に開設された国立受精卵提供センターでは、体外受精(IVF)を試みた実父母から寄付された約100万個の受精卵を凍結保存している。2005年に凍結胚との養子縁組により初めて赤ちゃんが生まれて以来、これまでに1000名以上の赤ちゃんが誕生した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア、捕虜交換完了後に和平案を提示する用意=外相

ワールド

トランプ氏、日鉄のUSスチール買収承認の意向 「計

ワールド

アングル:AIで信号サイクル最適化、ブエノスアイレ

ビジネス

アングル:グローバル企業、トランプ関税の痛み分散 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 2
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 3
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非礼すぎる」行為の映像...「誰だって怒る」と批判の声
  • 4
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 5
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワ…
  • 6
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 7
    空と海から「挟み撃ち」の瞬間...ウクライナが黒海の…
  • 8
    「娘の眼球がこぼれ落ちてる!」見守りカメラに映っ…
  • 9
    【クイズ】PCやスマホに不可欠...「リチウム」の埋蔵…
  • 10
    備蓄米を放出しても「コメの値段は下がらない」 国内…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 4
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 5
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 6
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 8
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 9
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 10
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中