最新記事

医療

アメリカ中西部にコロナ感染の大波 医療現場は崩壊の危機

2020年11月30日(月)11時38分

春に米国の大都市を襲った新型コロナ感染は、今では地方や小さな町を飲み込み、全国にくまなく浸透したようだ。写真はカンザス州レーキンの病院で19日、患者を退院させる準備をするスタッフ(2020年 ロイター/Callaghan O'Hare)

米中西部カンザス州、カーニー郡病院のドルー・ミラー医師は、自分が受け持っている新型コロナウイルス患者を別の病院に移さなければいけないことが分かっていた。

30歳の患者は脈拍数などのバイタルサインが急激に悪化していたが、地方都市レーキンのカーニー郡病院にはこの患者に対処する設備が整っていなかった。病院の最高医療責任者(CMO)で郡の医療部門のトップを兼任するミラー医師は、大きな病院に電話を掛けまくって集中治療室(ICU)の空きベッドを探したものの、1つも見つからなかった。

翌日ベッドの空きが見つかるまで患者は危篤状態が続き、ミラー医師らが45分間にわたって心臓マッサージを続ける局面もあった。

患者はなんとか脈拍を取り戻し、25マイル(約40キロ)離れた大きな病院へと救急車で運ばれた。ミラー医師は「彼が助かったのは、まったくの奇跡だ」と振り返った。

小さな町も餌食に

春に米国の大都市を襲った新型コロナ感染は、今では地方や小さな町を飲み込み、全国にくまなく浸透したようだ。ロイターが中西部の医療関係者や公共衛生部門の当局者など十数人に取材したところ、多くの病院はベッドや機器が足りず、特に専門家や看護師など医療スタッフの不足が深刻な問題となっていることが分かった。

米国では新型コロナの感染者数と入院患者数が全国で急増中だ。オハイオ州からノースダコタ州、サウスダコタ州を結ぶ中西部域の10州は特に感染が激しくなっている。感染状況を分析するCOVIDトラッキング・プロジェクトによると、中西部は感染率が国内の他の地域よりも2倍以上高く、感染者数は6月半ばから11月半ばにかけて20倍強も増加した。

同プロジェクトによると、ノースダコタ州は11月19日までの1週間に住民100万人当たりの1日の新規感染者数が平均1769人だった。サウスダコタ州は1500人近く、ウィスコンシン州とネブラスカ州は1200人前後、カンザス州は1000人近くだ。

一方、ニューヨーク州は、多くの店舗が閉鎖され住民の間でパニックが広がった感染最悪期の4月時点ですら同500人にとどまり、カリフォルニア州は過去最高が253人となっている。

中西部の複数の病院幹部によると、既に病院は収容能力が限界か限界近くに達している。ほとんどの病院は収容能力を拡大するため、通常は他の目的で使われている病棟部分の活用、1つの病室に多数の患者を入れる、スタッフに超過勤務やシフト入りを増やすよう求める、などの対策を進めている。

カーニー郡病院のように、農村地域や過疎地をカバーする「クリティカルアクセス病院」に指定されている規模の小さい病院は本来、こうした対応を目的としていない。資金面はぜい弱で、大規模な医療施設から離れた地域の住民に対して基本的な治療や救急医療を提供するのが主な仕事だ。ミラー医師によると、今では「誰であろうと来院した人には手当てができるよう計画を立てざるを得ない」と言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中