最新記事

2020米大統領選

アメリカ大統領選挙、敗残のトランプを待ち構える訴訟の山 検察による刑事捜査も

2020年11月13日(金)19時00分

こうした訴追については深刻な論議を呼ぶ可能性があり、司法省は、仮に刑事訴追に値する不正行為があるとしても、トランプ氏を訴追することが公益に反すると判断する可能性もある。

バイデン氏はこの疑惑について非常に慎重に対応しており、新政権下では司法省の判断に干渉しないと述べている。

前任者に対する刑事訴追について、バイデン氏は8月、ナショナル・パブリック・ラジオに「きわめて異常な事態であり、恐らく、何と言うべきか、民主主義にとって非常に良いことではないだろう」と語っている。

トランプ氏の弁護士にコメントを求めたが回答は得られなかった。

ニューヨーク州による民事詐欺訴訟

民主党員であるニューヨーク州のレティシア・ジェームズ州司法長官は、トランプ氏とその一族が経営するトランプ・オーガナイゼーションに対する脱税捜査を進めている。

この捜査は、トランプ氏の弁護士だったコーエン氏が連邦議会に証言した内容がきっかけだ。コーエン氏は、トランプ氏が債務・保険のコストを抑制するために資産価値を吊り上げた後、不動産税を抑えるためにまた低く抑えたと述べた。トランプ・オーガナイゼーション側は、この事件は政治的な動機に基づいたものだと主張している。

この捜査は民事であり、罰金に繋がる可能性はあるが、収監されることはない。

ジェームズ長官はこれに関し1つないし複数の取引にトランプ氏の息子でトランプ・オーガナイゼーションの執行副社長を務めるエリック・トランプ氏同氏が密接に関与していたとみており、10月に事情聴取を行った。

E・ジーン・キャロル氏による訴訟

雑誌「エル」の元記者であるE・ジーン・キャロル氏は、2019年にトランプ氏を名誉毀損で告訴している。1990年代にニューヨークの百貨店内でトランプ氏から性的暴行を受けたとするキャロル氏の主張をトランプ氏が否定し、著書の販売促進のために嘘をついていると非難したためだ。

8月、州裁判官は裁判の継続を認めた。これによってキャロル氏の弁護士は、現場の百貨店で彼女が着ていたとされる衣類と照合するため、トランプ氏のDNAサンプルを要求できることになる。

米司法省はこの事件の被告をトランプ氏ではなく連邦政府にしようと努力したが、マンハッタン連邦地方裁判所の連邦裁判官は、この措置を却下した。マンハッタン連邦地裁のルイス・カプラン判事は、キャロル氏に関するトランプ氏の発言は、大統領としての職務の範囲で行われたものではないと述べている。

しかし、バイデン政権下の司法省はトランプ氏をこの事件から切り離そうとする努力を放棄するだろう、とミシガン大学のバーバラ・マッケイド教授(法学)は予想する。

「根拠のない主張だと思われ、新政権下で司法省がそれを続けるとは考えにくい」と元連邦検察官の同教授は言う。

サマー・ザーボス氏による訴訟

またトランプ氏は、サマー・ザーボス氏による訴訟も抱えている。2005年、トランプ氏が司会を務めるテレビのリアリティーショー番組「アプレンティス」に出演した人物だ。トランプ氏は、2007年に会った際に彼女にキスを強要しし、ホテルでわいせつな行為を仕掛けたという。

トランプ氏がザーボス氏を嘘つき呼ばわりしたため、彼女はトランプ氏を名誉毀損で告訴した。

トランプ氏は、自分は大統領なのでこの訴訟からは守られていると述べている。

この訴訟は保留となっている。ニューヨーク州の控訴裁判所は、「トランプ氏は在任中も訴訟に応じなければならない」とした2019年3月の決定を見直している。大統領の座を降りれば、トランプ氏の言い分ももはや通用しない。

(Makini Brice記者、Jan Wolfe記者、翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・人民日報、「大差で勝った」と言い張るトランプを笑う
・巨大クルーズ船の密室で横行する性暴力


ニューズウィーク日本版 豪ワーホリ残酷物語
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月9日号(9月2日発売)は「豪ワーホリ残酷物語」特集。円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代――オーストラリアで搾取される若者のリアル

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

FRB理事候補ミラン氏、政権からの利下げ圧力を否定

ワールド

ウクライナ安全保証、26カ国が部隊派遣確約 米国の

ビジネス

米ISM非製造業指数、8月は52.0に上昇 雇用は

ビジネス

米新規失業保険申請、予想以上に増加 労働市場の軟化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中