最新記事

国連

多様性と平等を重視するはずの国連高官は白人ばかり

THE U.N.’S DIVERSITY PROBLEM

2020年11月12日(木)17時40分
コラム・リンチ(フォーリン・ポリシー誌記者)

元ポルトガル首相のグテレスは、西欧人として(代行職を除けば)4人目の国連事務総長だ。彼はこの演説で「アフリカは二重の意味で犠牲者だ」とも指摘した。「まず、植民地支配の犠牲となった。そして第2に、あの大戦を経てアフリカの人たちが独立を果たす以前に設立された国際機関においても、正当に代表されているとは言えない」

だがグテレス自身も人種問題でつまずいた。世界各地で人種差別に対する抗議デモが盛んになった今年6月、国連の人事部門は国際公務員の倫理規定を盾に、抗議デモへの参加を控えるよう職員に指示した。特定の加盟国における社会情勢には中立を守るべし、というわけだ。

外交筋によると、グテレスも当初は人事部門のこの見解を支持していたが、批判を浴びたので翻意し、職員が個人としてデモに参加するのは自由だと表明した。実際、アフリカ系アメリカ人の国連高官として最も有名でノーベル平和賞も受賞したラルフ・バンチ(故人)も、かつて公民権運動たけなわの時期に、アラバマ州セルマで故キング牧師と並んで行進していたのだ。

その後、グテレスはオンラインの職員集会で改めてこう釈明した。国連は「人種差別に直面した職員に中立的な立場を取るよう強いたりはしない。個人として連帯の意思を表明し、あるいは平和的な抗議行動に参加することは禁じない」と。

8月には、国連職員を対象とした人種問題に関する調査が中止に追い込まれた。回答者に肌の色を尋ね、その選択肢に黄色(イエロー)が含まれていたからだ。イエローは歴史的にアジア系の人々に対する差別的表現と受け止められるため、撤回を求められることになった。

アメリカで黒人男性ジョージ・フロイドが警官に殺され、その後に激しい抗議行動が起きたことを受け、国連の職員団体は6月に、アフリカ系職員を対象として人種差別に関する調査を行った。回答を寄せたのは2000人超。筆者が入手したその調査報告によると、職員の約52%が何らかの形で人種差別の経験ありと回答していた。

「あらゆる分野に差別がある。職種や昇進、研修にも」と、ある匿名の回答者は述べていた。「本部の仕事にアフリカ人が採用されることはまれ」だという回答もあった。上級職に就くのは圧倒的に欧米諸国の出身者で、「アフリカ人の自分は危険な勤務地に張り付けられている」という訴えもあった。

多様化は絵に描いた餅

国連憲章で、職員の採用は実力主義に基づくが「可能な限り地理的に広く採用する重要性に配慮する」と定められている。だが職員の間には、グテレス体制下のOCHAで途上国出身者の活躍の場を増やすための努力があまりにも少ないという不満もある。

OCHAの広報担当は、多様化の努力がもっと必要だと認めつつ、2017年にローコックが国連事務次長(人道問題担当)兼緊急援助調整官に着任してからは改善が見られると語った。「OCHAでは多様化推進の決意を実行に移している」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ロ首脳が電話会談、プーチン氏はウ和平交渉巡る立場

ワールド

ロ、ウ軍のプーチン氏公邸攻撃試みを非難 ゼレンスキ

ワールド

中国のデジタル人民元、26年から利子付きに 国営放

ビジネス

米中古住宅仮契約指数、11月は3.3%上昇 約3年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中