最新記事

国連

多様性と平等を重視するはずの国連高官は白人ばかり

THE U.N.’S DIVERSITY PROBLEM

2020年11月12日(木)17時40分
コラム・リンチ(フォーリン・ポリシー誌記者)

ちなみに広報担当官のゾーイ・パクストンはイギリス人で、以前は英国際開発省でローコックの部下として働いていた。「上級職に外部から多様な人材を採用する、国内担当から国際担当へと昇進させるなどの努力を重ねてきた」と言う。

パクストンによると最近OCHAでは欧米諸国以外の出身者を2人、上級職に起用した。フランスとスリランカの国籍を持つラメシュ・ラジャシンガムが人道問題担当の国連事務次長補代行、ヨルダン人のムハンナド・ハディがシリア担当の地域人道問題調整官を務めている。

ほかにも空席の上級職がいくつもあるため、「(非欧米人の)割合を増やす機会」があるとのことだ。2016年以降に欧米出身者の人数をOCHA全体の3分の2から2分の1くらいに減らしたとも、パクストンは言う。とはいえ「まだやるべきことがあり、ここで止まることはない」。

現場で働く職員でも、欧米人の割合は2016年以降、49%から42%にまで減ったという。国連全体では専門職の下級職員に占める欧米人の割合が60%から42%以下に減った。だが上級職に欧米人が起用されやすい傾向は変わっていない。

OCHA幹部15人を見ると、欧米人でないのは1人だけだ。広報のパクストンはローコックの国際開発省時代の部下だし、事務次長室も欧米人3名で切り盛りしている。うち首席補佐官もイギリス人で国際開発省の出身、副首席補佐官はスウェーデン人、秘書官はカナダ人だ。

OCHAは国連事務局のその他の機関に比べ、予算のかなり多くの部分を豊かな加盟国からの寄付に頼っている。それが採用や昇進にも影響しているようだ。国連本体の予算で運営されている部門では、より地理的多様性が高い。

内部の批判派によると、ローコックはその裁量権を用いて上層部を欧米人で固めてきた。最近スウェーデン、イタリア、ノルウェーなどの出身者を要職に起用したが、事前に募集をかけず、その他の職員は応募できなかったと多くの内部関係者が証言する。またニューヨーク本部では昇進の見込みがないことを理由に、士気が低下しているとされる。

昨年の内部調査によると、働きやすさや革新性、職員の定着率でOCHAは他部門に見劣りする。「非倫理的行為に関してあらゆる職位の者が責任を果たしていると考えるOCHA職員は半数に満たない(47%)」ことも判明している。

とりわけ本部職員の士気低下は深刻で、現地勤務の職員に比べて「権限が少なく、やる気が出ない」と感じているようだ。働きやすさや男女の平等についても、本部より現地事務所のほうがましだという。

だから「本部職員の間では満足度が相対的に低い」し、「ストレスは多く、上層部への信頼度は低く、昇進についての不満は高い」という。悲しいかな、人道支援の司令塔が人の道から外れている。

From Foreign Policy Magazine

<2020年11月17日号掲載>

20240423issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月23日号(4月16日発売)は「老人極貧社会 韓国」特集。老人貧困率は先進国最悪。過酷バイトに食料配給……繫栄から取り残され困窮する高齢者は日本の未来の姿

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中