最新記事

香港

【香港人の今4】「政権が見たいのは、こういう自己検閲だ」38歳新聞記者

RISING LIKE A PHOENIX

2020年11月27日(金)17時20分
ビオラ・カン(文・写真)、チャン・ロンヘイ(写真)

新聞記者 梁嘉麗(38) PHOTOGRAPH BY CHAN LONG HEI

<香港の状況は絶望的に悪化している。11月23日には民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)らが収監された。香港人は今、何を思い、どう反抗しているのか。16人の本音と素顔を伝える(4)>

新聞記者 梁嘉麗(38)

今年8月10日、中国に批判的な日刊紙、蘋果日報(アップル・デイリー)の創業者・黎智英(ジミー・ライ)が香港国家安全維持法違反の疑いで逮捕され、捜査のため警察官が本社ビルに乗り込んできた。

その時、同紙記者の梁嘉麗(シャーリー・リョン)は会社におらず、同僚のライブ中継で状況を把握するしかなかった。「警察の行動は『おとなしく言うことを聞くように』というメディア全体への警告だ」

蘋果日報は同法が施行されると、記者の安全のため記事の署名を伏せ始めた。法律の線引きが確定できないためだ。

「記事で誰かの話を引用したら、それが扇動になるのか。扇動的と弁護士に言われたら書かないのか。妥協すれば絶対安全なのか。政権が見たいのは、こういう自己検閲だ」

第一線の記者として15年も走り回ってきた。「抑圧は今に始まったことではない。メディアが中国資本に買収され、ベテラン編集者が異動させられるなど、20年間ずっと進んできた」

道のりは険しいが、真実の報道を譲らなければ希望は見える、と信じている。「ここに残り記録を続ける。最後まで......もしくは逮捕されるまで」

magHK20201127-4-2.jpg

難民ビザの申請者 L(47)& K(40) PHOTOGRAPH BY VIOLA KAM

難民ビザの申請者 L(47)& K(40)

香港の公務員だったLと妻のKは、昨年の逃亡犯条例改正案反対デモで何度も救急ボランティアとして現場に姿を見せた。だが今年3月、6歳の息子の将来のためオーストラリア政府へ難民ビザを申請し、香港から脱出した。

2人とも香港で生まれ育ち、苦難であれリスクであれ、この街で共に乗り越えたいと願っていた。しかし、デモ隊がけがを負ったり、捕まったりしても全員を救えない無力感がストレスや苦しみになった。

「警察の仕事は市民を守ること、と子供に言えなくなった。是と非の区別を教えるすべも分からなくなって」

昨年末、各大学でのデモ隊と警察の攻防戦が世界を驚かせた。キャンパス内で負傷者の手当てをする救急隊員ボランティアまで逮捕された。こんな街はもう息子を育てるのに適していない──。

元の職業が「高技能」とも言えず、資金もないため、彼らは難民の人道支援プログラムに申請した。夫のLはすぐ仕事が見つかった。

故郷を離れて身は軽くなった。だが、心は終始、香港から離れない。「香港を立ち去ることは終わりではなく、新しい始まりだ。海外からでも香港への応援を続けたい」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

冷戦時代の余剰プルトニウムを原発燃料に、トランプ米

ワールド

再送-北朝鮮、韓国が軍事境界線付近で警告射撃を行っ

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB価格を7130円に再引き

ワールド

インテル、米政府による10%株式取得に合意=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で見つかった...あるイギリス人がたどった「数奇な運命」
  • 4
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 5
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 8
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 9
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 10
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中