最新記事

宇宙船

新しい原子力エンジンで火星への到達時間が半減?

NASA Handed New Nuclear Engine Design That Could Cut Mars Travel Time

2020年10月27日(火)18時05分
アリストス・ジョージャウ

火星への旅が7時間から3時間になる?(写真はイメージ) Elen11/iStock.

<米シアトルの企業が、原子力宇宙船のエンジンをNASAに提出>

米ワシントン州シアトルに拠点を置く企業が、宇宙船用原子力エンジンのコンセプトを考案した。実現すれば、将来の宇宙探査では、わずか3カ月で火星に到達できるようになるかもしれない。

コンセプトを考案したウルトラ・セーフ・ニュークリアー・テクノロジーズ(USNC-Tech)は、米航空宇宙局(NASA)にデザインコンセプトを提供したと述べた。宇宙飛行用の熱核推進(NTP)システムに関する研究の一環だ。

NTPシステムは、核分裂として知られるプロセスを動力源とする。核分裂で熱を発する炉心に、液体の推進剤を注入することで稼働させる設計が多い。

推進剤が熱せられて気化すると、推進力が生まれる。現在使われている化学燃料ロケットと比べて推進力が大きく、効率も高い。エンジニアは、異なる推進システムの性能を評価するために、「比推力」と呼ばれる測定値を用いる。

比推力は、一定量の推進剤から得られる推力を示した値だ。この値が大きければ大きいほど速く飛べる。

USNC-Techの主席エンジニア、マイケル・イーズは声明で、同社の新しいコンセプトはこれまでのNTP設計よりも信頼性が高く、「比推力は化学燃料システムの2倍以上だ」と述べた。

「宇宙の新たなフロンティアを切り開く取り組みを、迅速かつ安全に主導していきたい」とイーズは述べた。

NTPシステムなら、現在の最新鋭化学燃料ロケットと比べて、宇宙での移動時間が大幅に短縮されると同時に、ペイロード(有効搭載量)を増量できる見込みがある。ただし、ロケットを軌道に乗せるために設計されているわけではなく、使用されるのは発射後に限られる。

原発の技術を応用

こうした技術により、たとえば火星までの標準的な移動時間が2分の1以下に短縮されるかもしれない。現時点では火星まで7カ月かかる。月や火星への有人探査を計画しているNASAにとっては大助かりだ。

USNC-Techによれば、この新しいコンセプトは、地上の原子力発電所で使われている原子炉の仕組みを応用したもの。

「USNC-Techの設計のカギは、地上と宇宙の原子炉技術を意識的に重複させたことだ」と、同社の最高経営責任者(CEO)パオロ・ベネリは声明で述べる。「だから、原子力技術と原発の進歩をわが社の宇宙用原子炉にも採り入れることができる」

ひとつの例が、今回の設計コンセプトで原子炉の動力源に使用している核燃料。「FCM燃料」と呼ばれるこの燃料は、実際に民間の原子炉から取り出されて再処理された材料がベースとなっている。

同社によるとこの燃料は、通常の核燃料より「頑丈」で、より高温での運転が可能なので、安全性が高められると言う。

(翻訳:ガリレオ)

ニューズウィーク日本版 日本人と参政党
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月21日号(10月15日発売)は「日本人と参政党」特集。怒れる日本が生んだ参政党現象の源泉にルポで迫る。[PLUS]神谷宗幣インタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 6
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中