最新記事

米中対立

米中衝突が生むアジアの新たなパワーバランス

US-China Geopolitical Battle for Asia Shapes New Power Dynamic for Region

2020年10月26日(月)17時57分
トム・オコナー、ナビード・ジャマリ

南シナ海で監視活動にあたる日米豪の軍艦(10月20日) U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Markus Castaneda

<中国の台頭への強い不安が地域の国々そしてアメリカをつなぐ接着剤になっている>

近年、アジアにおける影響力を拡大してきたアメリカと中国は今まさに、この地域を巡る勢力争いのまっただ中にいる。アメリカのドナルド・トランプ大統領はオーストラリアやインド、日本と言った国々とのパートナーシップをさらに発展させ、この争いで優位に立とうとしている。

トランプの大胆なアプローチはチャンスでもありリスクでもある。

米大統領選の投票日を半月後に控え、トランプはもちろん民主党のジョー・バイデン候補側も、外交政策と言えば取り上げるのはインド太平洋地域における地政学的闘争ばかり。「クアッド」と呼ばれる日米豪印戦略対話に参加する国々の関心も同様だ。いずれも中国との間で問題を抱えつつ、恭順も対立の激化も望んでいない国々だ。

以前からあったクアッドに新たな命が吹き込まれたのはトランプ政権下の2017年のこと。以来、正式な軍事同盟があからさまに関与するという形ではなく、非公式な形で中国に対抗する力となってきた。

メアリー・ワシントン大学のジェーソン・デービッドソン教授(政治学・国際問題)は「クアッド創設以降、最も基本的な流れとなっているのが独断的な行動を強める中国の台頭だ」と語る。

米ソ冷戦との違いは経済の相互依存性の強さ

デービッドソンによれば、南シナ海や台湾に対し中国が主権を主張しているといった問題は直接にはクアッドに影響を与えていないものの、まったくないというわけでもない。直接に関わっているのは、日豪印がそれぞれ抱えるやっかいな対中問題だ。日本は尖閣諸島をめぐる領有問題を抱えているし、オーストラリアでは中国によるスパイ活動や政治への違法な影響力行使の疑惑が持ち上がっており、インドは中国との国境紛争で死者も出ている。

デービッドソンは現在の状況は、かつての米ソの冷戦に部分的にだが似ていると語る。

「今日の世界には、冷戦初期と似た面がいくつかある。2つの大国が互いを脅威と見なしている点がそうだ」とデービッドソンは本誌に述べた。「そうした状況は、(軍事)同盟の結成につながる傾向がある。大国はより小さな国々を自分の勢力圏内に置きたいと考え、小さい国々の側も保護を求めているからだ」

だが少なくとも1つ、根本的な違いがある。それは米中が経済的に強い相互依存の関係にあるということだ。

「米中間の経済関係の強さも、冷戦中の米ソ関係とは異なる点だ」とデービッドソンは言う。「これは米中両国ともに、国内には平和的関係を望む強い勢力を抱えていることを意味する」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中