最新記事

中国

世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由

THE TRUTH OF THE THREE GORGES DAM

2020年10月24日(土)11時40分
譚璐美(たん・ろみ、ノンフィクション作家)

私の記憶では、1980年代に「黄河は死んだ」と聞かされた。水量が減り、生活用水や工業用水を垂れ流した揚げ句、毒々しい赤色や紫色の溜水ができて大量の魚が死滅したからだ。

「黄河の最大の特徴は、シルトと呼ばれる細かい粒子の土砂が黄土高原から運ばれて高密度で河川に含まれていること。上流域の開発が断流と呼ばれる流れの変化をもたらし、下流に(流れ切れない)土砂が堆積して河床が上昇し、洪水を多発させました」と、角教授は口火を切った。

そこで三門峡ダムに土砂を通過させる改修工事が行われ、その後、下流に水と土砂の調節を目的として小浪底ダムが建設された。

日本ではダムに堆積する土砂を排出する方法を「通砂」「排砂」と呼ぶが、中国では「調水調砂」と呼び、下流の河床の調整と「通砂」を同時に行う考え方をするという。

「小浪底ダムは三門峡ダムと連携して調水調砂を行い、また密度流(ダム湖の底をはう高濃度の土砂の流れ。これを利用して通砂が行われる)の効果を高めるために、世界初の『人工密度流』という排砂方法も実施されました」

「人工密度流」とは、上流ダム群の放流に合わせて、下流ダムの貯水池内に堆積した土砂を高圧水ジェットで攪拌し、より高密度の流れを人工的につくり出してダムの底部にある排砂管から下流へ排出することだ。黄河は特にシルトが圧倒的に多く、その特徴を生かした方法と言える。

ここから分かるのは、中国の河川管理・洪水管理の技術が決して劣っているわけではないということだ。では、実際のところ、長江の三峡ダムはどうだったのか。

長江は中国最長の河川で全長約6300キロ。チベット高原を水源とし、四川盆地から東へ流れて、河口部の上海で東シナ海へ注ぐ。

上流域の成都や重慶、中流域の武漢は中国屈指の工業都市で、中下流域の安徽省、江蘇省は全中国の農産物の約40%を占める穀倉地帯だ。下流域の南京から上海までは商業都市がひしめき、長江はこれら19の省・市・自治区を結ぶ水運の大動脈である。

噂されている三峡ダム決壊説について質問すると、角教授は「コンクリートダムは決壊しません!」と、明快に言い切った。

コンクリートは砂と砂利と水とセメントを混ぜた自然素材で、アルカリ性である。空気に触れると中性に変化し、劣化する。例えばビルを建てた場合、コンクリートの中には鉄筋を入れるので、鉄筋が腐食するとコンクリートも劣化してもろくなるし外気に触れる部分は風化する。

一方、ダムには鉄筋がほとんど入っていないので、堤体の水につかっていない下流側の表面など劣化する部分はあっても、水につかった部分や堤体内部はアルカリ性のまま変化せず、半永久的に堅牢だと言ってもよい。

「コンクリートダムの決壊というのは、基礎岩盤が脆弱だったり、地震や水圧で河床部が変形したり、岩盤との接合部分がズレたりすることで起こります」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に

ワールド

トランプ氏、ウクライナ大統領と会談 トマホーク供与

ビジネス

NY外為市場=ドル、週間で対円・スイスフランで下落
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 5
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 6
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 9
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 10
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中