最新記事

環境

コロナ禍でプラスチック業界に激震 廃棄増がリサイクル圧迫

2020年10月10日(土)13時01分

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)でプラスチック業界が激震に見舞われている。写真は5月、ナイロビにあるプラスチックのリサイクル工場で撮影(2020年 ロイター/Baz Ratner)

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)でプラスチック業界が激震に見舞われている。武漢からニューヨークまであらゆる地域で、フェイスシールドや手袋、食品のテイクアウト用容器、オンラインショッピングで注文された商品の配送用緩衝材などの需要が増えているが、こうした製品はリサイクルできず、廃棄物が急増している。

一方、業界内ではコロナ禍でリサイクル品と新品の間で価格競争が激化。5カ国で20人以上に取材した結果や価格データから、世界各地でリサイクル品がその競争に負けている実態が明らかになった。

中国廃塑料協会のスティーブ・ウォン会長はロイターのインタビューで「本当にたくさんの人が困っている。トンネルの先に明かりが見えない」と嘆いた。

新品プラスチックがリサイクル品の半額に

リサイクルプラスチックが新品との価格競争で敗北を喫したのは、原材料である化石燃料の値下がりが原因。ほぼすべてのプラスチックは化石燃料から生成されるが、石油はコロナ禍による景気減速で需要が落ち込んで価格が下落。新品のプラスチックも値下がりした。

2017年に科学誌サイエンスに掲載された調査よると、1950年以降に世界中で発生したプラスチック廃棄物は63億トンで、その91%はリサイクルされていない。廃プラスチックの大半はリサイクルが難しく、リサイクル業者の多くは以前から政府の支援に依存している。業界で「バージン材料」と呼ばれる新品プラスチックの価格は、最も一般的なリサイクル品の半分ということもある。

新型コロナ感染拡大以降、リサイクルプラスチックの利用方法として最も一般的な飲料用ボトルですら生き残りが難しくなった。市場調査会社ICISによると、飲料ボトル製造用のリサイクルプラスチックは新品ボトルの製造に適合するプラスチックに比べて83-93%割高だ。

新型コロナで廃プラが増加

多くの国で政治家がプラスチックの使い捨てによるごみとの戦いを約束したが、そこを新型コロナが襲った。世界で取引される廃プラの半分以上を輸入していた中国は、2018年に輸入を禁止。欧州連合(EU)は21年から使い捨てプラスチック製品の多くを禁止する計画だ。米上院は使い捨てプラスチックの禁止を検討中で、リサイクルに関する法的な目標を導入する可能性がある。

プラスチックはそのほとんどが分解せず、気候変動の大きな要因となっている。

世界経済フォーラムが飲料業界のデータに基づいて試算したところによると、プラスチック製ボトル4本の製造で排出される温室効果ガスは、自動車が1マイル(約1.6キロ)走行する際の排出量に相当する。

化学エンジニアのジャン・デル氏が19年4月に公表した調査によると、米国で燃やされるプラスチックの量はリサイクルの6倍に上る。

しかし新型コロナ流行により、プラスチックごみは減るどころかさらに増える流れが際立っている。

シンクタンクのカーボン・トラッカーが9月に実施した調査によると、石油・ガス業界はバージン原料用の素材生産のために今後5年間に4000億ドル(約42.3兆円)程度を投資する計画。電気自動車(EV)の普及やエンジンの燃費改善で燃料の需要が落ち込む中、新プラの需要増が今後の石油・ガスの需要の伸びを支えると期待しているためだ。アジアなどでは中間層の消費者が新たに大量に生まれ、プラスチック製消費財の利用が高まると当て込んでいる。

エクソンモービルの広報担当者は「向こう20年から30年間にわたり、人口と所得の伸びによってプラスチックの需要が増える見通しだ。プラスチックは安全で、便利で、高い生活水準を支える」と述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 6

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中