最新記事

日本外交

米中対立で試される菅外交のバランス感覚──超大国の狭間で日本が決断を強いられる日

Japan’s Difficult Balancing Act

2020年9月29日(火)09時10分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

前任の安倍は習近平とも良好な関係を築いたが(昨年のG20大阪サミット) MIKHAILKLIMENTYEV-KREMLIN-REUTERS

<象徴的な意味合いの習近平訪日より、米中対立絡みで近くアメリカが求めるであろう「技術」「安全保障」に関する2つの要求によって、日本ははるかに難しい局面を迎えることになる>

安倍晋三の突然の首相辞任は、彼のレガシーについて多くの不透明な問題を残した。その1つが、米中の対立が激化するなかで地政学的なバランスを取ってきた安倍の戦略を、後任の菅義偉が受け継げるかどうかだ。

米中両国は日本の平和と繁栄にとって極めて重要な存在だ。アメリカは日本の安保の「保証人」であり、2番目に大きな貿易相手国。中国は最大の貿易相手国であり、すぐ隣にある大国だ。安倍は両国と良好な関係を維持するため、巧みに立ち振る舞ってきた。

ドナルド・トランプ米大統領とは友人関係を築いた。日米貿易が公平ではないと言われても、在日米軍駐留経費の負担を4倍に増やせと要求されても、うまくしのいできた。

安倍は中国の習近平(シー・チンピン)国家主席とも関係を深め、2018年に日本の首相としては7年ぶりに訪中。習も米中関係が悪化するなかで安倍の歩み寄りを受け入れ、今年4月に日本を公式訪問することを決めていた。中国の指導者としては2008年以来の訪日となるはずだったが、コロナ禍の影響で当面延期されている。

菅は安倍と違って、米中の両方にいい顔をすることが難しくなり、短期的には習の訪日について決断を迫られる。中国が香港への統制を強めているため、習を国賓として迎えることには与党・自民党にも反対論が強い。一方、トランプの対中封じ込めに対抗したい習にとっては、訪日が実現すれば大きな勝利となる。

中国側の望みに応じれば、菅は国内の政治基盤を損なう。訪問を中止すれば習の面目をつぶし、日中関係に悪影響を及ぼす。菅にやれることはただ1つ、習の訪日を可能な限り先送りするために、あらゆる言い訳を探すことだ。

ミサイル配備という難題

しかし象徴的な意味合いの濃い日中首脳会談の問題より、米中関係に絡んで近く日本に起こり得る2つの事態のほうが、衝撃ははるかに大きい。

第1にアメリカは日本に対し、中国に供給している主要技術に関する規制強化を求めるだろう。中国に巨額の直接投資を行い、1万4000社近い日本企業が中国で事業を展開するなかで、日本が要求に完全に応じることは困難だ。

第2に菅は、安全保障面で今までのように受け身ではいられない。南シナ海で領土的野心を強める中国に対抗するため、アメリカは日米豪印戦略対話(クアッド)の一員である日本に海上合同演習への一層の参加を求めるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北・東欧8カ国首脳、EUの防衛強化訴え ロシアは「

ビジネス

米ワーナー、パラマウントの買収案拒否の公算 17日

ビジネス

FRBの追加利下げ、インフレリスク高める可能性=ア

ワールド

トランプ氏支持率39%に低下、経済政策への不満広が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中