最新記事

米司法

ルース・ギンズバーグ判事の死、米社会の「右旋回」に現実味

2020年9月26日(土)20時45分

鍵となるロバーツ長官

2018年に保守派のアンソニー・ケネディ判事が引退した後の2年間、連邦最高裁の動向を左右する立場となったのがジョン・ロバーツ最高裁長官だった。だが、ギンズバーグ氏の後任をトランプ大統領が指名することになれば、同長官の影響力ある立場も弱まる可能性がある。

9人の判事で構成される連邦最高裁において、イデオロギー的に中間の位置を占めるロバーツ長官は、自分より左のリベラル派4人、右の保守派4人のどちらに付くかによって、多数派意見を決定する権利を握っていた。

ロバーツ長官は制度としての連邦最高裁を守り、司法権の独立を擁護する人物として知られており、重要な事件においてギンズバーグ氏のほか3人のリベラル派に賛同している。

6月には、人工妊娠中絶を厳しく制約するルイジアナ州法を無効とする側に立ち、子どもの頃に米国に入国した数十万人の不法移民、いわゆる「ドリーマーズ」の保護を廃止しようとするトランプ氏の動きを阻止した。

ロバーツ長官は、状況によっては重要な事件で妥協点を探り、彼よりも保守派の判事らを困惑させることもある。

たとえば連邦最高裁は今年7月、ニューヨーク州検察によるトランプ氏の財務記録の提出請求を認めると判示する一方で、民主党優位の下院委員会が直ちに同様の資料を入手することを阻止した。ロバーツ長官はいずれの判決も支持している。

だが、ギンズバーグ氏が死去した今、ロバーツ長官が自分1人で均衡した勢力を左右することはできなくなった。

官僚機構との戦い

保守派と企業関係者は、長年にわたり、連邦政府諸機関の権限の抑制を求めてきたが、連邦最高裁も自発的にこの動きに協力するようになっている。

いわゆる「行政国家との戦い」は、保守派の最高裁判事が6人に増えることによって拡大する可能性がある。最も注目すべきは、連邦法の適用範囲の解釈に際し、裁判所は連邦政府官僚に従うべきであるという1984年の画期的な判例が危うくなりかねないという点だ。

仮にこの判例が覆されるようになれば、今後の民主党政権が、環境保護や消費者保護といった分野の規制を定めようとしても、保守派に支配された連邦最高裁が、その規制を制約することができる権限を与えられる可能性が生じる。


Lawrence Hurley(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・米中新冷戦でアメリカに勝ち目はない
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......?


ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スタバ、バリスタ労組が無期限スト突入 繁忙イベント

ワールド

トランプ政権、カリフォルニア州提訴 選挙区割り変更

ワールド

米政府、独などの4団体を国際テロ組織指定 「暴力的

ビジネス

米経済にひずみの兆し、政府閉鎖の影響で見通し不透明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 6
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中