最新記事

コロナと脱グローバル化 11の予測

世界経済は「後退」の局面に入った──脱グローバル化と多国籍企業

THE RETREAT FROM GLOBALIZATION

2020年9月7日(月)11時10分
ウィリアム・ジェーンウェイ(ベンチャーキャピタリスト)

magSR200904_globalization2.jpg

ITのハードばかりか医療品分野でもアメリカは中国製に頼っている。フェイスマスクがいい例だ(中国・南京のマスク工場) COSTFOTO-BARCROFT MEDIA/GETTY IMAGES

グローバル化のさまざまな局面の中で、まず最初に疑問視されたのは金融統合だ。2008年の金融危機は、グローバル化した金融市場の脆弱さを露呈させた。

金融機関は「効率性」を執拗に追求して自己資本から最大限の利益を搾り取ったが、その結果、レジリエンス(回復力)が危険なほど損なわれた。バブルが崩壊すると、FRB(米連邦準備理事会)を中心とする世界の中央銀行によって、前代未聞の介入が行われた。

そして、新型コロナ危機がダメ押しをした。パンデミックにより、世界経済の非金融分野である「実体」部門、すなわち商品やサービスの世界的な生産と流通についてもレジリエンスの欠如が露呈している。

「多くの企業はパンデミックのダメージを切り抜けた後に、効率性とレジリエンスの間で、よりリスク回避的なバランスを取ろうとするだろう」と、保険大手アリアンツの首席経済アドバイザーのモハメド・エラリアンは指摘する。

数十年にわたり企業に愛されてきた、費用対効果の高いグローバルなサプライチェーンと効率を最優先する在庫管理システムも、今後はリショアリング(国内回帰)など、よりローカルなアプローチに取って代わられるだろう。

経済学は少なくともアダム・スミスの時代から、物理的・財政的資源を効率的に配分する能力を自由市場の美徳と見なしてきた。

ただし、将来の効率性を追求するほど不確実性が高まるため、必然的に計画立案の範囲が狭くなる。企業の短期主義は、目先の株価に基づいて役員報酬が決まるという経営陣のインセンティブだけが原因ではなく、より一般的な投資判断にも影響を与える問題だ。高リスク高収益である研究開発と同様に、不測の事態に備えたレジリエンスへの投資も、目先の予測し得る利益を増やすために、最初に犠牲にされてしまう。

半導体戦争の厳しい現実

サプライチェーンの脆弱性に対する懸念は、米政府が発信する反中国の主張が示すとおり、国家安全保障に対する懸念へと変化して、さらに強固なものになっている。

とはいえ、正当性のない懸念というわけでもない。グローバル化の第2波の主な特徴は、アメリカのハイテクの製造拠点が主に中国へと、大々的かつ計画的にオフショアリング(事業の国外移転)されたことだ。

半導体、フラットパネルディスプレイ、さらには太陽電池パネルなどデジタル革命を担うハードウエアは、もはや米国製ではない。シリコンバレー草創期の象徴であるインテル社はマイクロプロセッサを米国内で製造しているが、それも現実を際立たせる例外にすぎない。そのインテルでさえ、世界一の半導体製造受託企業である台湾積体電路製造(TSMC)に後れを取っている。

【関連記事】コロナ不況でも続く日本人の「英語は不可欠」という幻想

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルのミサイルがイラン拠点直撃、空港で爆発音

ワールド

ロシア凍結資産、G7がウクライナ融資の担保に活用検

ビジネス

リスクオフ加速、日経1200円超安 イスラエルがイ

ワールド

トランプ氏口止め事件公判、陪審員12人選任 22日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中