最新記事

終戦の日

1942年、日本軍による「オーストラリアの真珠湾攻撃」 97歳の元豪兵士の証言

2020年8月15日(土)12時30分

オーストラリア・シドニー北部の海岸近くで暮らすリンゼイ・ダフティさん(写真)は、18歳だった1942年2月、日本軍が同国への初の爆撃として北部港湾都市ダーウィンを奇襲した日に、爆弾を投下する爆撃機の操縦席パイロットの顔が見えたことをしっかり覚えている。写真はシドニーで7月撮影(2020年 ロイター/Loren Elliott)

オーストラリア・シドニー北部の海岸近くで暮らすリンゼイ・ダフティさんは、元気な白髪の97歳。18歳だった1942年2月、日本軍が同国への初の爆撃として北部港湾都市ダーウィンを奇襲した日に、爆弾を投下する爆撃機の操縦席パイロットの顔が見えたことをしっかり覚えている。

ダフティさんが砲火を経験したのは初めてで、そのとき、対空砲班の僚友を見殺しにすることになるのではと不安になったのも忘れてはいない。

「残念ながら私たちは全く不意打ちされた」とダフティさんは語る。「レーダーの用意はなく、戦闘機もなく、低空飛行を狙うボフォース軽対空砲もなかった。ただただ、できるだけのことをするしかなかった」

ダフティさんは今も、75年前の9月2日に日本が降伏文書に調印し、第2次世界大戦の太平洋戦争が終わったときに感じた静かな安らぎを忘れない。

日本はドイツ、イタリアと枢軸同盟を組み、アジア太平洋域を侵略し占領した。

1942年2月19日に始まって43年11月まで、ダーウィンは数十回の空襲を受けた。これは「オーストラリアでの真珠湾攻撃」と呼ばれることもある。

当時、ダーウィンは連合国軍の主要拠点で、近隣の南太平洋諸島での展開を支援する船舶や飛行機の基地ともなっていた。

ダフティさんは42年に入隊してすぐにダーウィンに送られた。到着して間もない2月19日、日本軍の240機が2回に分けてダーウィンに爆弾を投下。民間人のほかオーストラリア軍と米軍の計240人が死亡した。オーストラリア政府の記録によると、日本軍はダーウィン港で船舶8隻を撃沈した。

ダフティさんは日本軍の長距離戦闘機について語る。「爆撃は激しかった。急降下爆撃機も零式艦上戦闘機(ゼロ戦)も来た。樹木すれすれの高度まで降下してきた」

ダフティさんによると、10人ほどだった自分の班は身を守るものがほとんどなく、地面は岩だらけで塹壕を掘るにはあまりにも固く、おまけに近くには爆薬が積み上げられていた。

幾度となく空襲が続き逃げ惑ううち、近くの炸裂で石ころが雨のように降り注いだと振り返るダフティさんの顔には、それでもほほえみが浮かぶ。何とかその場を逃れるとき、僚友の手をしっかり握っていたのだという。「なんとも決まり悪いね」

45年、シドニー北部の軍需品倉庫で働いていたとき、広島と長崎への原爆投下を受けて日本軍が降伏したことを知った。特に歓喜は起こらなかったという。「ただ、ひそやかな安堵感だけがこみ上げてきたよ」

(Jonathan Barrett記者、Jill Gralow記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・新たな「パンデミックウイルス」感染増加 中国研究者がブタから発見
・韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪魔編集」がはびこる


2020081118issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
楽天ブックスに飛びます

2020年8月11日/18日号(8月4日発売)は「人生を変えた55冊」特集。「自粛」の夏休みは読書のチャンス。SFから古典、ビジネス書まで、11人が価値観を揺さぶられた5冊を紹介する。加藤シゲアキ/劉慈欣/ROLAND/エディー・ジョーンズ/壇蜜/ウスビ・サコ/中満泉ほか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当

ワールド

ゼレンスキー氏、和平案巡りトランプ氏との会談求める

ワールド

タイ・カンボジア両軍、停戦へ向け協議開始 27日に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 6
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 7
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中