最新記事

ワクチン

新型コロナ、ワクチン開発の苦境──ワクチン実用化に時間がかかる理由は何か?

2020年7月30日(木)12時40分
篠原 拓也(ニッセイ基礎研究所)

副反応には、予防接種をした部位が腫れたり、赤みを帯びたり、ズキズキ痛んだりする局所反応と、発熱やリンパ節が腫れるなどの全身反応がある。局所反応や全身反応の多くは、投与後数日以内に発現するとされる。

特に、重篤な有害事象として、死亡・障害やその恐れのある症例、後世代における先天性の疾患・異常などがあげられる。こうした重篤な有害事象に対しては、詳細な報告書を作成するとともに、報告後も十分にモニタリングを行う必要があるとされている。

これらの有害事象を収集する期間は、不活化ワクチンの場合、投与後2週間、生ワクチンの場合、投与後4週間が目安とされている。電話連絡により確認したり、被験者が受診する際に日誌を回収したりして、収集される。

このように、ワクチンの場合は、安全性に対する評価がとても重視される。発症予防効果がいくら高くても、副反応のリスクが大きければ、開発はストップされる。つまり、ワクチンの開発はとても難しいということになる。

感染症が収束すれば開発中止の可能性も

現在、世界中の医薬品メーカーや研究機関で、新型コロナウイルスの治療薬やワクチンの開発が進められている。ワクチン開発に参画している研究の中には、すでに臨床試験を開始しているものや、間もなく臨床試験に入ると公表しているものがある。ワクチンの開発競争は、激しくなっている。

一般に、医薬品開発は、成功・失敗の予測が難しくリスクが大きいとされる。特に、ワクチンの場合、開発途中で、そもそも感染症が収束したり、あるいは他社のワクチンが先に実用化されたりすれば、開発を中止せざるを得ない事態も起こりうる。

実際に、SARS(重症急性呼吸器症候群)や、MERS(中東呼吸器症候群)の感染拡大時には、そうした経緯からワクチンの開発が完成に至らなかったといわれる。

今回の新型コロナで、遺伝子ワクチンの開発に取り組む国内の研究者からは、現在自分たちが開発中のワクチン候補は、臨床試験等で人を対象に使用できるようになるまでに最低6か月はかかるとしたうえで、それまでにウイルスの流行が抑え込まれれば、開発を中止する可能性もある──との話も出ている。

いずれにせよ、新型コロナの感染拡大を防ぐには、ワクチン開発が欠かせない。速やかなワクチン実用化のために、開発リスクを軽減する支援も必要と考えられるが、いかがだろうか。

Nissei_Shinohara.jpg[執筆者]
篠原 拓也 (しのはら たくや)
ニッセイ基礎研究所
保険研究部 主席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中