最新記事

ワクチン

新型コロナ、ワクチン開発の苦境──ワクチン実用化に時間がかかる理由は何か?

2020年7月30日(木)12時40分
篠原 拓也(ニッセイ基礎研究所)

そして、いま注目を集めているのが、ウイルスの設計図ともいえる遺伝情報を使う「遺伝子ワクチン」だ。ウイルス本体ではなく、ウイルスの遺伝子を使ってワクチンを作るため、理論上、安全性への懸念は少ないとされる。

また、開発されたあかつきには、ウイルス遺伝子を組み込んだプラスミドと呼ばれるDNA分子を、大腸菌などを使ってタンクで培養でき、ワクチンの大量生産が可能となる。このため、従来の鶏卵を使った製造法に比べて、短期間、低コストで実用化が図られる。ただし、これまでに、遺伝子ワクチンが人で実用化された事例はない。

いずれのワクチンにしても、発症のリスクを減らすもしくは無くす一方で、免疫を獲得できることが条件となる。このために、ワクチン候補について臨床試験で有効性と安全性を確認することが必要となる。

ワクチンの有効性は発症予防効果でみる

では、有効性の確認は、どのように行われるのだろうか。臨床試験のガイドラインによると、基本的には、「発症予防効果」をみることが望ましいとされている。発症予防効果は、ワクチンを打たなかった場合と比べて、どれだけ発症する患者を減らせたかという指標で表される。

たとえば、ワクチンとプラセボをそれぞれ100人ずつ被験者に投与したとしよう。しばらくして、ワクチンを投与された人からは20人、プラセボを投与された人からは50人が発症したとする。

この場合、ワクチンの効果により30人(=50人-20人)の発症が予防できたとみられる。したがって、発症予防効果は、60%(=30人÷50人)となる。

感染症の種類によって、発症予防効果は異なる。たとえば、予防接種の効果が一生涯続くとされる、はしかの場合、発症予防効果は90%以上との研究報告がある。

一方、季節性インフルエンザでは予防接種を受けても、その効果は数か月間に限られる。ある研究によれば、発症予防効果は65歳以上の健常な高齢者について約45%であったと報告されている。

このように、ワクチンの効果は100%ではない。たとえワクチンを打っても、感染や発症をしないとは言い切れないことになる。

しかし、多くの人がワクチンを打てば、感染者の数を減らすことができ、その結果、感染拡大が抑えられる。つまり、ワクチンによって「集団免疫」が働く効果がある。この集団免疫を効かせるために、早期のワクチン開発が望まれるわけだ。

「副反応」リスクが大きければ、開発はストップ

安全性の評価は、投与されたすべての被験者に対して「有害事象」を収集するという形で行われる。

ワクチンの場合、体外の物質が化学作用することよりも、体内で免疫学的に起こる反応が問題となることが多い。そこで、治療薬の「副作用」とは区別して、「副反応」という用語が使われる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米英首脳、両国間の投資拡大を歓迎 「特別な関係」の

ワールド

トランプ氏、パレスチナ国家承認巡り「英と見解相違」

ワールド

訂正-米政権、政治暴力やヘイトスピーチ規制の大統領

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中