最新記事

ハッカー攻撃

ワクチン研究にサイバー攻撃か──米英カナダがロシアの「APT29」を非難

Russian Cyber Espionage Group Trying to Steal COVID-19 Vaccine Research

2020年7月17日(金)15時20分
ジェイソン・マードック

報告書はどの組織が標的にされたのかを明かしておらず、現時点では、APT29に狙われた研究のいずれかに具体的な被害があったかどうかは不明だ。報告書には、APT29が「最近公表された攻撃ツールを利用して(情報入手の)足掛かりを得ることに成功した」とだけ記されている。

米FBIのクリストファー・レイ長官は、7月に入ってから保守系シンクタンク「ハドソン研究所」で行った演説で、COVID-19の研究を狙ったサイバースパイを行っているのはロシアだけではないと語っていた。

「現在中国が、COVID-19の研究を行っているアメリカの医療機関や製薬会社、研究機関のシステムへの不正侵入を狙っている」とレイは警告した。

サイバーセキュリティーの世界では、APT29がこれまでも複数のサイバー攻撃に関与してきたことが知られており、ロシア政府の利益のために活動を展開していると見なされてきた。

情報セキュリティー会社マンディアントのジョン・ハルトクイスト情報担当ディレクターは、「COVID-19は世界のどの国の政府にとっても現在進行形の危機だから、治療に関する情報の収集にサイバースパイの能力が使われているのも意外なことではない」と語った。「ワクチンや治療法の開発を行っている組織が、ロシアやイラン、中国など、研究でほかの国よりも優位に立ちたい国の標的にされている」

「攻撃は1月には始まった」

彼はさらにこう続けた。「1月の時点で既に、COVID-19に関連して複数の国の政府が(サイバースパイの)標的にされ始めていた。APT29はこれまで、幾つか有名になった事件に関与してはいるものの、ロシアのほかのサイバースパイに比べれば注目されることは少ない。ひそかに情報収集を行うことが多いからだ。ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の工作員が堂々と破壊的な攻撃を実行するのに対して、APT29は長い時間をかけて、標的から情報を少しずつ吸い上げていく」

ネットワークセキュリティー会社ソニックウォールのCEOでGCHQの顧問でもあるビル・コナーは、本誌へのメールでこう述べた。「今回たまたまロシアの活動が露呈したが、大きなニーズがあるなかで、国家がサイバー犯罪を手段に使って、世界の医療に影響を及ぼすようになるのは時間の問題だった」

さらに彼は「今回のパンデミックが拡大と進化を続けるなか、今後、同じような攻撃が繰り返されることになるだろう。彼らが狙う情報は、世界中の大勢の人にとってきわめて価値のある情報だ。情報を手に入れた企業は大儲けできる」と指摘した。「サイバー犯罪者たちは金の流れを追う。ワクチン関連の情報には、多額の懸賞金がかけられている」

【話題の記事】
「BCGは新型コロナによる死亡率の軽減に寄与している可能性がある」と最新研究
科学者数百人「新型コロナは空気感染も」 WHOに対策求める
中国のスーパースプレッダー、エレベーターに一度乗っただけで71人が2次感染
セックスドールに中国男性は夢中

20200721issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月21日号(7月14日発売)は「台湾の力量」特集。コロナ対策で世界を驚かせ、中国の圧力に孤軍奮闘。外交・ITで存在感を増す台湾の実力と展望は? PLUS デジタル担当大臣オードリー・タンの真価。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ロ高官のウ和平案協議の内容漏えいか、ロシア「交渉

ビジネス

米新規失業保険申請、6000件減の21.6万件 低

ワールド

サルコジ元大統領の有罪確定、仏最高裁 選挙資金違法

ワールド

香港の高層複合住宅で大規模火災、13人死亡 逃げ遅
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 5
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「世界の砂浜の半分」が今世紀末までに消える...ビー…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 6
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 7
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中