最新記事

新型コロナウイルス

中国のスーパースプレッダー、エレベーターに一度乗っただけで71人が2次感染

China Superspreader Gave COVID-19 to 71 People in a Single Elevator Trip

2020年7月14日(火)17時55分
ハナ・オズボーン

エレベーター内のどこか表面に触っただけなのにクラスター発生 Zephyr18/iStock.

<たった一人でこの感染力。しかも本人は無症状──このことから言えるのは、市中感染はいつでも起こり得るということだ>

今年3月中国で、エレベーターを一度利用しただけの女性が、推定71人に新型コロナウイルスを感染させたことが、米疾病対策予防センター(CDC)のサイトに掲載された研究報告で明らかになった。

この女性は、二次感染させた誰とも直接は接触しておらず、接触機会といえば、アパートのエレベーターに一緒に乗っただけだった。こうした「スーパースプレッダー」の事例は、新型コロナウイルスの感染者が1人いるだけで「広範囲の市中感染」に発展する可能性があることと、自主隔離でウイルスを抑制することの難しさを示していると、研究チームは述べている。

25歳のこの女性は、3月19日にアメリカから黒龍江省の自宅に帰宅。同省では3月11日以降、新規感染者は1人も出ていなかった。帰国時、女性は無症状だったため、自宅で自主隔離するよう指示された。それ以来、彼女が人と「接触」したのは自宅アパートでエレベーターに乗った時だけ。それも直接触れたわけではなく、空間を共有しただけだ。女性は、3月31日と4月3日にPCR検査と抗体検査を受けたが、いずれも陰性だった。

あちこちで人が倒れ出す

感染経路は非常に複雑だ。女性の部屋の階下に住む男性の家では、3月26日に泊まった母親とそのパートナーが3日後、パーティーに出かけた。4月2日、パーティー参加者の1人が発作を起こし、同じくパーティーに出ていた息子たちに付き添われて病院に搬送された。4月7日、母親のパートナーが新型コロナウイルス感染症を発症した。

「(母親のパートナーである)男性は4月9日に陽性と確認された。このクラスターで最初に確認された感染者だ」と、新興感染症の学術誌「Emerging Infectious Diseases」には書かれている。その後、この男性と接触した複数の人も、検査で陽性の結果が出た。そのなかに、アメリカから帰国した女性と同じアパートに住む住民も含まれていた。

4月2日に発作を起こした男性が、息子たちに付き添われて入院しているあいだに、病棟内ではほかに28人が新型コロナウイルスに感染した。さらに、看護師5人、医師1人、病院職員1人も感染した。男性が発熱後に転院した2つ目の病院でも、20人が感染したことがわかっている(入院男性は4月9日に感染が確認された)。

感染経路をたどる中で、アメリカから帰国した女性の存在が幸運にも明らかになり、4月10日と11日に再検査を行った。その結果、IgG抗体が陽性と判明。以前に新型コロナウイルスに感染していたことを示唆する結果だ。研究者らは、この女性は無症状キャリアで、エレベーターのパネルなどを通じた接触感染で同じアパートの住民に感染を広げたと結論づけた。ほかの住民は検査の結果、全員が陰性だったという。

<参考記事>新型コロナの起源は7年前の中国雲南省の銅山か、武漢研究所が保管
<参考記事>科学者数百人「新型コロナは空気感染も」 WHOに対策求める

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用コスト、第3四半期は前期比0.8%上昇 予想

ワールド

スターマー英首相、トランプ氏の批判に反論 「欧州は

ビジネス

カナダ中銀、金利据え置き 「経済は米関税にも耐性示

ワールド

ノーベル平和賞マチャド氏、授賞式間に合わず 「自由
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲う「最強クラス」サイクロン、被害の実態とは?
  • 4
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中