最新記事

ハッカー攻撃

ワクチン研究にサイバー攻撃か──米英カナダがロシアの「APT29」を非難

Russian Cyber Espionage Group Trying to Steal COVID-19 Vaccine Research

2020年7月17日(金)15時20分
ジェイソン・マードック

ワクチンも欲しがっているに違いないロシアのプーチン大統領 Maxim Shemetov-REUTERS

<英米加の情報当局がロシア政府とつながりのあるハッカー集団の「悪質な活動」を警告>

イギリス、アメリカとカナダの当局は7月16日に共同で、ロシア政府とつながりのあるハッカー集団が、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のワクチン開発に関する情報を狙ってサイバー攻撃を行っていると非難する声明を出した。

3カ国の情報当局が合同で作成し、16日に公表した報告書によれば、サイバー攻撃を行っているのは、ロシア政府とつながりのある「APT29」(別名「コージーベア」)と呼ばれるハッカー集団。新型コロナウイルスの研究に関する情報を盗もうと、政府や外交関係者、シンクタンクや医療・エネルギー関連施設などを標的に「悪質な活動」を展開しているという。

「APT29は2020年に入ってからずっと、COVID-19のワクチン開発に携わっているカナダ、アメリカおよびイギリスのさまざまな組織を標的にしてきた。ワクチンの開発や試験に関する情報や知的財産を盗むことが目的である可能性が高い」と報告書は指摘。またAPT29については、過去にも指摘されたように、ロシアの情報機関の一部として活動しているのは「ほぼ確実」とした。

報告書を公表したのは、英政府通信本部(GCHQ)の下部組織である国家サイバーセキュリティ―センター。米国家安全保障局(NSA)をはじめ、アメリカとカナダの複数の情報機関も報告書の作成に協力した。

2016年の米大統領選でも暗躍

イギリスのドミニク・ラーブ外相は同報告書の公表に合わせて発表した声明で、「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)と闘うために働いている人々を標的にするロシア情報機関の行為は、まったく容認できない」と批判。「見境のない行為で自分の利益ばかりを追求する者たちがいるが、イギリスと同盟諸国は、ワクチンを見つけて世界の人々の健康を守るために懸命に取り組んでいる」と語った。

報告書によれば、APT29は「ウェルメス」や「ウェルメール」と呼ばれるマルウェアを使用。COVID-19のワクチン開発に取り組む「各種組織のIPアドレスの脆弱性を調べて、見つかった弱点を攻撃」していた。

APT29は、2015年に米民主党全国委員会のシステムに不正侵入したほか、2016年の米大統領選においてさらに幅広い活動を展開した2つのロシア系ハッカー集団のひとつだった。もうひとつのハッカー集団「APT28」(別名ファンシーベア)と共に、スピアフィッシング(偽の電子メールを送信して個人情報を収集する)という手法を使って複数の政治家の情報を不正に入手し、選挙戦に介入。これについて複数の米当局者は後に、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の指示を受けたものと指摘した。

英国家サイバーセキュリティセンターのポール・チチェスター運用ディレクターは、16日に発表した声明の中で、COVID-19関連の情報を重点的に狙うAPT29の活動を「卑劣な攻撃だ」と強く非難した。

<参考記事>レムデシビル製造元の米ギリアドにサイバー攻撃 イラン系ハッカー集団か
<参考記事>反ワクチン派がフェイスブック上での議論で優勢となっている理由が明らかに

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米のベネズエラ介入は大惨事招く恐れ、ブラジル大統領

ビジネス

FRB議長候補ハセット氏、インフレ「極めて低水準」

ワールド

サンフランシスコ大規模停電、顧客約11万件で電力復

ワールド

欧州・ウクライナの米提案修正、和平の可能性高めず=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中