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【南シナ海】ポンペオの中国領有権「違法」発言は米中衝突の狼煙か

The U.S. Declared China’s South China Sea Claims ‘Unlawful.’ Now What?

2020年7月15日(水)18時35分
コーム・クイン

新しい姿勢のもとでアメリカが標的にするのは、南シナ海のほとんどを領有する口実として中国が長年唱え続けてきた法的にあやしい主張だ。

「われわれはここで明らかにする。南シナ海のほぼ全域で、海洋資源の権益をわがものとする中国の主張と、それらを支配するための威嚇的行動はどちらも完全に違法である」と、ポンペオは宣言した。

過去10年間、中国は南シナ海の小さな岩礁の存在をもとに疑わしい理屈で沖合の漁業と石油・ガス資源の権利を主張し、自国の領有権と権益を主張するフィリピン、インドネシア、マレーシアといった国々の船を追い払ってきた。
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今回のポンペオの声明で、アメリカの政策が2016年の仲裁裁判所による画期的な判決に基づくものになることがはっきりした。これはフィリピンにとって特に重要だ。フィリピンはスカボロー礁、ミスチーフ礁、セカンド・トーマス礁のような小さな岩礁の周囲の漁場や潜在的な石油資源へのアクセスをめぐって長年中国と争い、仲裁裁判所に提訴した。ポンペオはまた、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、インドネシアといった国々の沖合の海域を略奪しようとする中国の違法な企てに反論した。

「世界は中国政府が南シナ海を自国の海洋帝国として扱うことを許さない」と、ポンペオは言った。

どんな影響が生じるか

アメリカの新政策はある意味、中国が勝手に地図上に引いて中国の領海とした、いわゆる「九段線」を初めて全面的に拒絶したものといえる。「中国政府は、2009年に正式に発表した南シナ海における『九段線』の主張に対して筋の通った法的根拠を示していない」とポンペオは指摘した。

しかし、アメリカの新政策は、紛争中の領海の主張に関する既存の国際法を順守する構えを明確にしたという点で重大なことではあるが、以前のアメリカの立場から「根本的に外れているわけではない」と、米戦略国際問題研究所(CSIS)のアジア海事問題専門家グレゴリー・ポーリングは言う。むしろ「前の政権で暗黙の前提とされていた多くのことを明確にした」ものだと、ポーリングは言う。

デービッド・スティルウェル国務次官補(東アジア・太平洋担当)も、今回の発言の意義をあまり重要視しなかった。14日にCSISが主催したオンラインイベントで、スティルウェルは、この決定は既存の海洋法を認めただけだと語った。「いうなればものごとを整理しただけだ」

とはいえ、そこには多くのいい点がある。ポンペオの宣言のおかげで、レーダーやその他の監視装置にあてる資金の増額が議会で認められるかもしれない、と米海軍大学ストックトン国際法センターのジェームズ・クラスカ教授は言う。

周辺の東南アジア諸国はこのところ、南シナ海に対する中国の覇権的行動に対するアメリカのより強い対抗策を求めて声をあげていたが、今回の発言でアメリカがこの問題への関与を深めることが他の国々に対して明確に示された。

<参考記事>南シナ海の領有権争いにロシアが乱入
<参考記事>一隻の米イージス艦の出現で進退極まった中国

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