最新記事

米中対立

【南シナ海】ポンペオの中国領有権「違法」発言は米中衝突の狼煙か

The U.S. Declared China’s South China Sea Claims ‘Unlawful.’ Now What?

2020年7月15日(水)18時35分
コーム・クイン

南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島に中国が建てた「違法」建造物(2017年4月21日) Erik De Castro-REUTERS

<ポンペオが中国の領有権主張を「違法」と断言したことで、米中衝突のリスクは高まった。その場合、フィリピンのスカボロー礁が火種になる可能性が高い>

マイク・ポンペオ米国務長官は7月13日、南シナ海での中国の海洋進出について声明を出し、南シナ海の大半を領海とする中国政府の行き過ぎた主張と、隣接する国々への威嚇行動をどちらも「違法」と宣言した。

アメリカは長年、この問題については慎重な外交的発言を繰り返してきたが、今回の宣言はこれまでで最も踏み込んだもの。今後、中国の行動に対してより厳しい報復を行う可能性も出てきた。

中国の主張を「違法」として取り上げるこの新しい立場は、南シナ海における中国政府の侵略行為に対するトランプ政権の新たなアプローチを示しており、中国との対立がより広い分野に拡大することが予想される。

アメリカ政府は中国と貿易戦争を展開している。新疆ウイグル自治区の強制収容所に関わる中国高官のアメリカ国内の資産を制裁の対象にし、中国が香港国家安全維持法を制定したことに対しては、香港との間の犯罪人引き渡し条約を停止する。また、中国企業がアメリカ株式市場に上場するルールの厳格化を検討しており、通信大手ファーウェイを世界中の通信ネットワークから追い出すことに成功しつつある。

この新たな姿勢に対して、中国大使館の報道官はアメリカに「地域の平和と安定を混乱させ、妨害しようとする試みを止める」よう求めた。

判決に同調する立場

中国は南シナ海で海面上に露出する唯一の岩礁スカボローを領土と領海の起点とし、中国は周辺の石油、ガス、漁業資源にする権利を有すると主張してきた。岩礁の周囲には人工島を建設し、紛争中の浅瀬や環礁に軍事施設を設置するなどして、資源が豊富で戦略的に重要な水域に対する領有権の主張を既成事実化しようとしている。

国際常設仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)は2016年、南シナ海での中国の活動や領有権主張が国際法に違反するとして、フィリピンが中国を相手に提訴した裁判で、中国が海洋法に関する国際連合条約に違反していることを認める判決を下した。アメリカはこの条約を批准していないが、ポンペオの声明はアメリカの今後の政策が、正式にこの判決と一致するものになることを示している。

<参考記事>南シナ海の領有権争いにロシアが乱入
<参考記事>一隻の米イージス艦の出現で進退極まった中国

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ネタニヤフ氏、イランの体制崩壊も視野 「脅威取り除

ワールド

トランプ氏、イスラエルとイランの停戦合意を期待

ビジネス

仏ルノーCEOが退任へ、グッチ所有企業のトップに

ワールド

トランプ氏の昨年資産報告書、暗号資産などで6億ドル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中