最新記事

中印関係

インドが中国製アプリ「TikTok」を禁止した本当の理由

India Bans China Apps

2020年7月10日(金)17時30分
ラビ・アグラワル

中国製品のボイコットを訴える反中デモの参加者 Amit Dave-REUTERS

<国境係争地での衝突に対する報復としてTikTokや微信、百度を使えなくしたが、インド側が被る損害も小さくない>

インド政府は6月29日、59のモバイルアプリの使用を禁止すると発表した。「インドの主権と一体性を害する活動に関与している」というのが理由だ。公式発表では中国を名指ししていないが、59のアプリは全て中国製であり、狙いは明らかだ。

禁止されたアプリは、インドで推定6億回ダウンロードされている動画共有アプリのTikTok(ティックトック)、データ使用量が少なく、低価格スマートフォンのユーザーに人気のモバイルブラウザのUCブラウザ、データ共有アプリのシェアイット、検索エンジンの百度(バイドゥ)、中国版ツイッターの新浪微博(シンランウェイボー)、チャットアプリの微信(WeChat)などだ。

政府は情報技術法69A条を禁止の根拠に挙げているが、法律上は決定を秘密にしておくことも可能だ。この措置のポイントは、中国に対する立場を公にすることにあった。

6月15日の中印国境付近での衝突でインド軍兵士20人が死亡し、政府は強力な対抗措置を求める世論の圧力にさらされていた。だが貿易面での選択肢には限界があり、自殺行為になりかねない。軍事面での選択肢はさらに危険だ。

そこで中国のIT技術が標的に選ばれたというわけだ。実際にインドが中国側に何らかの損害を与えられる可能性がある分野でもある。

5Gシステムはどうする

この決定はユーザー数で世界最大の2つのネット市場の間で報復の応酬をエスカレートさせる可能性が高い。中国のIT企業に規制をかけようとしている他国の前例になるかもしれない。

インドは中国のいくつかの有力アプリの最大の海外市場だ。収益源としての規模は比較的小さいが、最も急成長している主要市場でもある。インド人がもっと豊かになれば、ユーザー1人当たりの収益は増加するはずだ。

CNNによると、インドのデジタル広告市場は今年26%の成長が見込まれている。インド政府の決定はこの市場を閉ざすことになる。インド側が中国製技術のセキュリティー上の危険性を強く認識するようになれば、他の中国製アプリやハードウェア、特に第5世代(5G)移動通信システムの関連製品も規制の対象になるかもしれない。

今回の決定はインド側にも損害を与えそうだ。愛国主義的な国内メディアや6月の衝突事件への復讐を求める人々は喜ぶだろうが、TikTokの禁止でインドのコンテンツ制作者は打撃を受ける。それでもTikTokと競合するロポソのようなインドのSNSは、新規ユーザーの獲得が期待できるかもしれない。

【関連記事】核弾頭計470発、反目し合う中国とインドを待つ最悪のシナリオ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネトフリのワーナー買収案、英政治家らが厳正審査要求

ビジネス

日銀、25年度の役員給与を改定 総裁は4.8%増の

ワールド

インド・EU、FTA最終合意 自動車・ワインなどの

ワールド

デンマークとグリーンランドの首相、独仏首脳と会談へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに...宇宙船で一体何が?
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中