最新記事

中印関係

核弾頭計470発、反目し合う中国とインドを待つ最悪のシナリオ

Can India and China Still Back Down?

2020年6月26日(金)18時30分
ジョシュア・キーティング

中印係争地、山岳地帯のラダック地方に向かうインド軍の車列(6月18日) Danish Ismail-REUTERS

<係争地で起きた両国軍兵士の衝突──米政権が「反中・親印」を強めるなか、核保有国同士が戦争に突き進む可能性は>

2つの大国の間で土地をめぐって戦争が勃発──新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は終わらず、経済に破滅的事態が迫り、人種差別や警察の暴力への抗議が世界各地に広がる今、最も起きてほしくないことの1つだ。しかも、両国が合わせて約470発の核弾頭を保有するとあっては。

中国とインドが国境を争うヒマラヤ山脈地帯で6月15日、インド軍いわく「暴力的な対決」が発生した。この衝突によるインド軍側の死者数は20人、負傷者数は少なくとも76人に上る(中国は18日になって、拘束していたインド軍兵士10人を解放した)。

インドの英字紙トリビューンによれば、多くは「崖から墜落したため」に死亡し、中国軍部隊は「石や鉄の棒、くぎを打ち付けた竹の棒」で武装していた。中国側は自軍の死傷者数を発表していないが、中国軍兵士40人以上が死亡したとの未確認情報がインド国内では報じられている。

今年5月に両国軍兵士の大規模な殴り合いが2度起きて以来、くすぶっていた対立ムードはこのところ解消に向かっているようだった。ところが、そんな希望は今回の事件によって打ち砕かれた。

衝突の火種である国境問題は数十年来のものだ。1962年に起きた中印国境紛争は中国の勝利で終わったが、両国間の長年の協議にもかかわらず、いまだに問題は最終的に解決されていない。

全長4000キロ超に及ぶ中国とインドの国境は、未画定の国境線としては世界最長で、その大半は住人が皆無に近い山脈地帯にある。

両国軍は事実上の国境である実効支配線(LAC)を挟んで警備に当たるが、LACの位置に関しても、意見は必ずしも一致しない。国境地帯では衝突が頻繁に発生し(インドメディアによれば、昨年の「中国による領土侵犯」は497件)、暴力沙汰になることもある。とはいえ「銃は使わない」が不文律で、1975年以降、銃撃戦は起きていない。

それぞれの思惑と事情

対立がこれほど悪化したのは3年ぶりだ。2017年には、インドが支援するブータンと中国の係争地、ドクラム高地で中国軍が開始した道路建設を阻止すべくインド軍部隊が送り込まれたが、結局は双方が撤退した。

magw200626_China_India.jpg

5月に起きた殴り合いは、インドによる国境地帯の警備に中国が反発したことがきっかけだという。インドメディアによれば、今回衝突が発生した山脈地帯で中国は軍事的プレゼンスを強化しており、同地には最大5000人の中国軍部隊が駐留している。

歴史が参考になるなら、両国は話し合いで緊張を緩和できるはずだ。中国にもインドにも国境問題より大きな戦略的優先事項があるのに、対立激化のリスクはこれ以上ないほど高まっている。背景にある要因に目をやれば、懸念はさらに膨らむ。

<参考記事>中国人民解放軍、インド軍との衝突で少なくとも40人死亡=インド政府高官
<参考記事>中国とインドが国境めぐって小競り合い、対立再燃に3つの要因

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ゴールデンドーム構想、迎撃システム試作品の発注先

ワールド

ウクライナ和平で前進、合意に期限はないとトランプ氏

ワールド

FBI長官解任報道、トランプ氏が否定 「素晴らしい

ビジネス

企業向けサービス価格10月は+2.7%、日中関係悪
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 10
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中